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赫く散る花 - 銀時 -

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 佐一郎は封筒から便箋を抜き、封筒をテーブルに置いてしまってから、折りたたまれた便箋を広げていく。そして、その便箋を銀時に向けてテーブルに置いた。桂や新八や神楽の視線も、便箋につづられた文章にそそがれる。
 銀時は手紙を読み進める。
 そこには、津倉屋惣兵衛の裏の顔について書かれていた。津倉屋は表の仕事の他に、麻薬の密輸および密売を行い、莫大な利益をあげているという。その麻薬の取引に携わるのは、清吉のように惣兵衛に恩義があり忠誠を誓っている者たちばかり。彼らは自分たちのしていることが犯罪であることがわかっていても、惣兵衛には逆らえないし裏切ることもできないらしい。
 清吉も、惣兵衛のためと思い、また、儲けた金が孤児のためになると思い、良心の呵責を感じながらも麻薬の密売に従事していたそうだ。
 けれど、自分の売った麻薬が、その相手を悲惨な状況に追いやるのや、別の犯罪を引き起こしたりするのを見続けるうちに、耐えきれなくなった。
 自分は世のためになるようなことをしたいとずっと思っていたのに、これではまったく逆だ。自分は世を悪くする存在になり果てたのだ。
 そんな考えが清吉の頭を支配して離れなくなり、生き続けるのがつらくなってしまったのだという。
 だから、自ら命を絶つ、と。
 しかし、それは自分が楽になりたいためであって、惣兵衛はなにも悪くないのだ、と。
 自分は惣兵衛をまったく恨んでいない、と。
 そう手紙には記されていた。
「……なァ、桂」
 のしかかってくるような重苦しい沈黙を破り、銀時は呼びかけた。
 桂が銀時のほうを向く。
「なんだ」
「お前ェ、さっき、なんか言いかけてやめただろ。もしかして津倉屋の裏稼業、知ってたのか」
「少しだけだが、悪い噂を耳にしたことがあった。津倉屋惣兵衛は幕府高官の天人と癒着し、なにか違法かつ儲けの大きい商売をしているのではないか。そして、その商売において、惣兵衛の慈善活動は純粋な善行ではなく、なんらかの利のあるものなのではないか。そういった、情報とは呼べぬ憶測だ。津倉屋へのねたみによる流言かも知れんと考えたから、伝えなかった」
「へえ」
 あいまいな相づちを打つと、視線を桂から正面へと移動させる。なにもない空中を見据えた。
 胸くその悪い話だと感じる。
 慈善は見返りを求めるものではないはずだ。
 それなのに、津倉屋惣兵衛は善人のような顔をして、相手を恩義でがんじがらめにして自分に絶対服従の駒にしてしまっている。
 腹が、たつ。
「……この遺書を持って警察に行きましょう!」
 新八が佐一郎に言う。
「清吉さんの命がけの告発です。警察もきっと動いてくれる」
 だが。
「待て」
 桂が止めた。
「津倉屋が幕府高官の天人と癒着しているという噂があると言ったはずだ。そして、それはおそらく事実だろう。ならば、遺書を警察に持って行ったところで、その天人の圧力が警察にかかり、握りつぶるされるのがおちだ」
「だけど、それじゃあ清吉さんは無駄死にじゃないですか!?」
 悔しそうな表情で新八は勢いよくソファから立ちあがる。
 すると。
「だから、この遺書の内容が真実であるという裏づけが必要なんだ」
 桂は新八を見あげ、冷静な声で告げた。
「動かぬ証拠を捜し出して、白日の下に晒す。そうすれば、津倉屋惣兵衛も、惣兵衛と結託している天人も、言い逃れはできまいよ」
 おだやかな口調だったが、凄みがあった。
 さらに、桂は佐一郎のほうに眼をやる。
「後ろ暗いところのある者は、やたらと警戒し、疑り深くなっているものだ。清吉が津倉屋の悪事を暴露した遺書をどこかに遺していないか心配していることだろう。もし、清吉の遺書を君が持っていると気づけば、君を狙うかも知れん。もしかすると、君の命すら狙うかも知れぬ。だから、決して、君が清吉の遺書を持っていることを悟られてはならん。君と清吉が親しい友人であったことは、調べればすぐにわかることだろう。友人が亡くなったのだから悲しんでいなければ返って怪しまれるだろうが、それ以外は普段と変わらぬ生活をしたほうがいい」
 桂が的確に指示すると、佐一郎は神妙な面持ちでうなづいた。

「……桂さん、いつもと感じが違いましたね」
「そーか?」
 桂は佐一郎が万事屋を去ったすぐ後に帰っていった。
 帰る直前に桂は万事屋三人に告げた。転生郷とは春雨の事件で深く関わったし、あの時たとえ銀時たちが首を突っこんでこなくてもこの麻薬を根絶やしにするつもりだった。また、政府高官の天人が津倉屋の麻薬の密輸・密売に力を貸しているとなれば、それを明るみにすることは攘夷党にも利のあることだ。それに、乗りかかった船だ。だから、協力する、と。
 銀時が、攘夷党と手を組むつもりはない、と断ると、桂は、では俺ひとりで攘夷党の党首としてではなくただの桂小太郎として万事屋に依頼された仕事を手伝おう、と言った。それを断ることもできた。だが、次の瞬間には承諾してしまっていた。
 どうかしていると思う。
 台所で桂に攘夷党へ勧誘された時に受け流せなかったことも。
 これまでは完璧に押さえこんでいたはずの感情が、押さえつけていたものがわずかにずれてしまって、その隙間から溢れだそうとしているような。そんな気がして、不安になる。
作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio