東方無風伝 3
「な、何をする馬鹿!」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。ただ耳に息を吹き込んだだけではないか」
涙目になりながら言う魔理沙。その頬が少し赤く染まっているため説得力に欠ける。
「俺は、今は人間だ。妖怪でも神様でもその他でもない」
「全く、それならそうと初めに言えっていうのに……」
魔理沙はそう愚痴る。
「風間、人間は正直者が一番だぜ。嘘吐きな泥棒は信用されないぜ」
「そうか、なら俺は他人からの信用は水族館のガラス以上に分厚いことだろうな」
「ダウト。見え透いた嘘は止めておけってことだぜ」
やれやれ、と口には出さず、肩を大袈裟に竦めて態度で現す。
魔理沙はそれを見え、ふん、と鼻で笑う。
「あれ、風間」
「なんだい魔理沙」
「その包帯、どうした」
魔理沙が指差しながら言うのは、野犬Aに噛まれた包帯を巻いた足。
「ああこれか。ちょいと野犬に襲われてな。なに、大事ないさ」
そう言うと、魔理沙は帽子を脱いで、中に手を入れ掻き回す、なにかを探しているようだ。
「風間、これ」
「ん?」
魔理沙が差し出すのは、緑色の液体が入った瓶。
「これを飲めと?」
「私がいれば、そんな怪我を負わなかっただろう。だから、その詫びだぜ」
「本音は?」
「実験。これは多分怪我の治療を促進してくれるだろうけど、それを知る為に私が傷つくわけにはいかない。今なら丁度いい機会だろう」
あー、はいはい。どうせそんなこったろうと思ってましたともさええ本当に。
別に案外素直なところが有るとか、可愛らしいところが有るとか、責任でも感じてるとか、そんなこと全然思ってませんでしたともさええ本当に。
「どうした風間」
「いやなんでも」
「じゃあ、ぐびっと」
この青苦そうな緑色の液体をか? まるで其処ら辺の雑草を引き抜いて煮詰めた液体のようだ。
匂いからして、まずそうだ。
「ほら、良薬は口に苦しとも言うだろ」
「苦い物は苦いだろう。苦いからと言って全てが良薬とは限らんだろう」
とか文句を垂れつつも、これは一応は魔女が作った薬、魔法薬だ。なんらかの効果は期待していいだろうが。
「ふぅ」と溜め息を一つ吐く。覚悟を決める為だ。
そして、覚悟は決まった。
腰に手を当て一気飲み!