東方無風伝 3
「甘い……だと……?」
苦いと思って飲んでみれば、意外にもそれは甘ったるかった。甘過ぎるくらいだ。
「どういうことだ……」
「見た目に騙されるなってことだろ」
「本当は?」
「そのうち自分が飲むかもしれないからな、味の方は一生懸命に改善したんだ」
そうか、魔理沙自身がこれからの生活で怪我しないと言う保証は何処にも無い。その時、この薬を飲むかもしれない。けどその薬がまずいのは嫌だと。
「因みに、味を見たことは?」
「無いぜ。だって、変な味になってたら嫌だし。でも風間の様子だと大丈夫そうだな」
「其処まで実験の一つだったのかよ」
どうりで、甘さが過ぎるわけだ。
「効果はそんな直ぐに出るものじゃないし、これからも定期的に様子を見に来るぜ」「
箒を片手に言う魔理沙。
魔理沙はそのまま枯山水の庭に立つ。
「もう、行くのか」
「長く居過ぎたくらいだぜ。私もそろそろ帰らないと、ペットが不機嫌になっちまうからな」
「ほう」
いい加減な性格の魔理沙がペットを飼っていたとは思ってもいなかった。なにより、そのペットのことを気にかけるとは余計に。
「案外可愛いもんだぜ」
「因みに、なにを」
「槌の子だぜ。大喰らいで結構大変なんだぜ」
なんとまぁ、幻想郷には槌の子までもいるのか。
……いや、それもまた必然か。槌の子自体、外の世界では消え去った生物だから、此方の幻想郷に流れてくると言うことか。
「さて、それじゃあな、風間。修業、頑張れよ」
「それじゃあな、魔理沙。次会う時は剣が似合う男になってるから、期待してろよ」
「お、それじゃあ明日にでも来ようかな?」
「……無茶を言うな」
そんな一日で其処まで変われるかってーの。
魔理沙は快闊に笑って、枯山水の庭を踏みにじる。
ああ、折角綺麗な庭なのに、なんてことするんだ魔理沙は。
「じゃあな!」
魔理沙は手を振りながら言うと、箒に跨る。途端、魔理沙を乗せた箒はあっという間に空へと飛び立ち、見えなくなる。
まるで嵐のようだな、魔理沙は。