東方無風伝 3
「なんだその亡霊にでも会ったような顔。そんなに私が此処にいるのが意外だったか?」
「ああ、意外だった」
「なんだ、私が風間を捨てて行ったとでも思っていたのか?」
「ああ、まぁ、あんなことを言ってしまったからな」
申し訳なさそうに言えば、魔理沙は腹を抱えて笑いだした。
「あはは、風間はあんなことで、私に嫌われたとでも思っていたのか」
「事実、置いて行かれたからな。そう思うのが自然だと思うが」
「それは、酔い潰れた風間に非が有るぜ。何時眼が覚めるかなんて解らない。そんな長い時間、あんなところに居るのは退屈ってもんだぜ」
……全ては俺の考え過ぎだったようで。
俺が言ったあの言葉を、魔理沙はそれ程気にしていなかったようで、俺を置いて行ったのは待つのが面倒だっただけとは。
それでも、俺は魔理沙に酷いことを言ってしまったのは変わらなくて。
「魔理沙、君が気にしていなくても、俺は謝る。すまなかった」
「別に良いぜそんなの。風間の言ったことは、間違ってはいないと思うぜ。風間に言われて、私も考えてみたんだ」
なにを、とは無粋なことは言わない。もう俺も彼女も解りきっているから。その結論も。
「困ってる人間を全て助けるなんて不可能だ。だから、せめては手の届く人間は助けるぜ。そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
「私は、風間を助けた意味が無い」
「正解」
それは魔理沙だからこその、正解だ。
これに答えなんて無い。だから、自分で考えて、自分の答えを見つけないと意味が無いのだ。魔理沙は自分の答えを見つけ出した。だから、それがどんな理不尽な理由だろうと何だろうと、それは正解なのだ。
「風間の答えは、一体なんだ?」
「言ったろ、人間が何時何処で誰がどうして死のうが、どうでも良いと」
「それだけじゃ、ないだろ。風間はそんな人間じゃない」
生憎と、俺は人間ではない。と言うのは通じないだろう。
「どうでも良いからこそ、少しは関心を持つようにしないといけないだろ? だから、俺は困ってる奴がいたら助けるよ。少しは人間を理解出来るように」
「……やっぱりお前人間じゃないだろ。その正体は一体何だ?」
「耳を貸せ、魔理沙」
そう言うと、魔理沙は片耳を俺に向け、近づけてくる。
「ふっ」
「うひゃあ!」
耳の中に息を吹き込めば、魔理沙は可愛らしい悲鳴を上げて一瞬で俺から距離を取る。