東方無風伝 3
「さて、と」
嵐は過ぎ去り、眠りについたように静かな白玉楼。
さて、これからどうしようかな。足の怪我が原因で暫くは修業なんて出来ないだろう。全ては怪我が治ってから。
「あ、そうだ」
顔を上げれば満開の桜があるのだ。どうせなら、あの桜を拝んでみようかな。
「だとすれば……妖夢は何処だ?」
桜は塀の向こう側にある為、塀を何処からか迂回せねばならないだろう。それまでの道のりは俺は知らない。妖夢に道案内を頼もうかと思うが、面倒だ。それに、手間を掛けされるわけにもいかないだろう。
幸いと、塀は低い。
「それっ」
塀に手を掛け身体を持ち上げれば、簡単に塀を乗り越えることは出来る。
「おや、西行寺と言ったか」
「あら、風間。御機嫌よう」
其処には先客がいた。白玉楼の主、西行寺幽々子だ。
相も変らぬ桃色の少女は、桜の花びらが舞う中をただ佇んでいた。その姿が、嫌になる程に様になっていて、まるで桜の亡霊のようだ。
「綺麗な桜だな。よくまぁこんなに植えたものだ」
「だからこそ、此処の桜は美しいのよ。どれも見劣りしないから、まるで桜に埋め尽くされた屏風のように」
「桜一色ってことか。それはつまらない。様々な色合いがあってこそ、それは芸術と呼べる。此処には、桜色しか有り得ない」
「あら、此処にはちゃんと、木々の緑も有るわよ。ほら、此処には白色が」
ほら、と言いつつ西行寺は自身の色素が抜けた肌を触る。
桜色には、西行寺自身を含んだつもりだったが、西行寺はそれを見抜いていたようで。
「西行寺。どうして今は冬なのに、こんなに桜が咲いているんだ?」
「春だからよ。桜は春に咲くものだからよ」
「……桜が咲いたから春なのか?」
「いいえ、霊夢の頭から春を取ってみたの。本当に取れるとは思ってなかったから、とても驚いたわ」
……確かにあの巫女の頭は春が沸いていそうだが。
「霊夢から春を奪って、それで白玉楼は春になった? それで桜が咲いたと」
「そうよ。それでも、まだ春は足りないのだけど」
西行寺は呟く。
「あの時は霊夢達に阻止されて西行妖(さいぎょうあやかし)は満開に出来なかった。でも、今なら出来そうな気がする」
「西行妖?」
「でも、もうそんなことをする気は無いわ。西行妖は永遠に満開にならないのよ」
……会話が噛み合っていない。どうして幻想郷の住人はどうしてこうマイペースなんだ。