東方無風伝 3
魔理沙のくれた薬は良く効くもので、一週間程度で跡も残さず傷は癒えた。流石は魔女の魔法薬だ。感心するよ。
「よし、成果は上々だな」
メモを取りながら言う魔理沙。どうやら本人も納得の良く結果を残すことが出来たようだ。
「付け加えるなら、味の改良をな。あれは甘過ぎる。砂糖を直接飲んでいるようだった」
「なら良いじゃないか。金平糖も綿菓子も氷砂糖も、早い話はただの砂糖だぜ」
「あれら菓子だ。砂糖丸飲みと菓子を食べるのでは訳が違う」
「あー、はいはい。それらの方も適当に改善しとくぜ。その時はまた実験台になってくれよ?」
「まぁ、下手すれば魔理沙自身厄介になるのやもしれないし、俺もまた厄介になるかもしれないからなぁ」
「だろ? 貸しもその分早く返せるぜ」
「だが断る。また怪我するのは嫌だ」
チェッと魔理沙は業(わざ)とらしい舌打ちを一つ吐く。
「風間は、此処一週間、何か修業的なものでもやったのか?」
突然魔理沙は話題を変える。退屈を紛らわすためだけにしかならない話に。
「特には何もやってないよ。強いて言えば、自主トレーニング程度だ」
「どんな自主トレだ?」
「腕立て腹筋背筋懸垂スクワット。その他諸々だ」
「うわぁ、暑っ苦しいぜ。よくそんなのやるなぁ」
「どうせ、暇を持て余すからな」
この白玉楼は平和だ。いや幻想郷はと言った方が正しいだろう。
お陰で今を持て余すようになり、暇潰しにと身体を動かすようにしているが、如何せん、足を怪我している。本格的な自主トレーニング出来ていないのが現状。と言っても、それも今日から変わるがな。
「まぁ、頑張れよ。私から言えるのはそれだけだぜ」
「それだけで十分すぎる程だよ。有難う魔理沙」
さて、妖夢は怪我が治ったことは知っているが、今日は様子を見て明日から始めると言っている。
きっと今日もこの一週間と大差ない日々を送るだろう。
適当な自主トレーニングを行い、桜の庭を掃く妖夢を眺めながら魔理沙と談話をし、其処に時折現れる西行寺が加わると言ったような、ひどく退屈で何も無いけど、平凡で平和で平穏な日々が。
それはきっと明日も変わらなくて、明後日も変わらなくて。
幻想郷は時間が止まったかのように、何時までも平和であり続けるのだろう。少なくとも、俺はそうであることを信じ続ける。