東方無風伝 3
「今日もまた頑張ってるわねぇ」
魔理沙が去り、今日もまた日課となり始めている腕立て伏せをしていれば、影が俺を覆う。
「まぁな。どうせやることも無いし、それなら強くなる為の近道をしたって構わないだろう」
ふぅん、と興味無いように言った西行寺は突然しゃがみこみ、俺と目線を合わせて言う。
「ねぇ、貴方はどうしてそんなに頑張れることが出来るのかしら?」
「……ふむ」
そう言う西行寺の顔は何時も通りの笑顔だが、その眼は真剣そのもので、心なしか敵意のような、冷たく突き刺さ視線が織り混ぜられていた。
取り敢えずは話やすいように、腕立て伏せを中断し、中庭の縁側に腰掛ける。
手招きをして西行寺を誘えば、西行寺はおとなしく俺の隣に腰掛ける。
「そうだなぁ、幻想郷は妖怪が跋扈する世界だ。何時妖怪に襲われて死ぬか解ったものではない。俺が強さを求めるのは、この幻想郷で生きる為だ」
「幻想郷で弱くても生きるなんて簡単よ。人里から出なければ良いだけだもの」
「それだけじゃあ生きていけないだろ? 何かあって人里を出る用が出来るかもしれない」
「ええ、確かにそう言うことも有るでしょうね。それでも、人里には自警団がいるわ。彼等に頼めば外に出ても守ってくれるわ」
「……西行寺、お前は何を俺に求めている」
まるで俺が強くなることを拒むように、俺が間違っていることを諭すような西行寺。
「貴方は、自衛の為に強くなる。そう言っているのよね」
「そうだが」
「争うこと前提なのね、貴方は。平和的に話し合いとか無いのかしら」
「……ふむ、成る程。西行寺は博愛主義者なのか」
「まさか。私が少し力を出せば、それだけで皆死のわ。そんな奴等、相手にしたところで無駄なだけよ」
そうか、西行寺が求めるのは、何故俺が争う事を自ら望んでいるのか、と言うことか。
「西行寺、俺は此処に来るまでに野犬に襲われた。彼等に話し合いなど通用し得ない。これから先、同じことが起こるかもしれない」
「それで? そんなのただの言い訳にしかならないんじゃなくて?」
「そうかもしれないな。だが、俺とて他者を殺したいわけではない」
「なら、何故他者を殺す力を求めるの?」
「これは俺のエゴだよ、西行寺。誰も殺したくないと言う俺自身の」
「どういうことかしら?」
そう、これはただの俺のエゴだ。最低限、他者を殺したくないと言う俺の。