東方無風伝 3
ガッと妖夢が横薙ぎに振った竹刀を受け止める。止められた、と判断するや否や、妖夢は後ろに跳び下がる。
桜が咲き乱れ舞い乱れ、地に落ちた花弁は土に汚れる白玉楼に庭にて、俺と妖夢は竹刀を手に対峙していた。
怪我も治ったことで修業が始まり、今は模擬戦闘中である。
下がった妖夢に畳み掛けるように接近し、居合いの要領で刀を左腰から右肩へと振り抜く。またも妖夢は後ろに下がりそれを避ける。
振り抜いた姿勢のまま固まる。其処に妖夢は鋭い突きを繰り出してくるが、それは身を捻ることで簡単に避けられる。
次に妖夢は一歩踏み出し、間を詰める。今度は横に振るう妖夢。それを再び受け止めれば、妖夢は強烈な蹴りを繰り出してくる。
腹に直撃する蹴り。唸り声を上げる暇も無く、怯む一瞬に妖夢は竹刀を振う。それを受け止めて、強引に弾き返す。
そして、また一歩前進。振った竹刀は宙を切る。
「ちっ」
舌打ちを一つ。
屈み避けた妖夢は、跳ね上がるような月を顔面目掛け打ち出
してくる。
「あっぶね!」
それは反らした顔を擦る。
前が見えないそれは、大き過ぎる隙を作り上げた。
妖夢は足を大きく振り上げる。その足先は竹刀を持つ右手にぶつかり、弾(はず)みで竹刀が手から零れ落ちる。
「ちっ」
舌打ちをもう一つ。
妖夢は落ちた竹刀を俺に奪い取られることが無いように、遠くへと蹴る。その一方で、妖夢の持つ竹刀は俺の首筋へと動こうとしていた。
それを、バック転からのタンブリングで逃げる。
妖夢は冷たい視線のまま、俺を追うことはせずに見つめるだけ。
ちらりと、遠くの捨てられた竹刀の位置を確認する。今俺がいる位置と妖夢の立つ位置の、丁度中間地点にそれは落ちている。
「まだ、続けますか?」
確かめるように言う妖夢。
「無論」
そう返すと同時に、竹刀を手に取る為に走り出す。
妖夢はそれを見てから、一瞬遅れて走り出す。
流石妖夢だ。一瞬の遅れと言えど、妖夢の反射神経は素晴らしいもので、殆ど同時と言ってもいいくらいだった。これなら、竹刀を手にしても妖夢の刃を避けることは難しいだろう。
後少し、と言うところで妖夢の間合いに入る。