東方無風伝 3
妖夢が振り抜いた竹刀は、的確に俺の急所を狙った素早い一撃だった。
本来ならば、妖夢の竹刀は獲物を確実に仕留めていただろう。だが、それはなかった。
「有りですかそんなの!」
「さぁどうだろうな!」
竹刀を受け止めるのは、一本の木枝。折れた桜を盾にしたのだ。
受け止めた竹刀を弾き、地面の竹刀を掬い取る様に宙へと投げ、棒きれの代わりに手に持つ。
「そんなの、実戦では通用しませんよ」
「いや、これとて模擬だろうが一種の実戦だろう」
納得のいかない表情の妖夢。
まぁ、妖夢の言い分も尤もだけどな。
「ほれ、俺からのプレゼントだ」
と言いながら、妖夢に枝きれを投げつける。
「小癪な!」と叫びながら妖夢は枝切れを弾き飛ばす。
其処には、既に竹刀を振る態勢の俺がいて。
妖夢の目が見開かれる。俺の竹刀は振り切られた。
……振り切っただと?
それは、獲物を切る事は出来なかったと言うこと。
妖夢は、上体を反らすことでなんとか避けきる事に成功したのだ。
「あっ」
全力で刀を振り抜いたのは、隙だらけと言うことで。
妖夢はバック転をしながらもその足で俺を蹴りあげる。
「そちらがその気なら、こちらもそれ相応の対処をしますよ」
体勢を整えた妖夢が言う。
頭を振り、蹴りの衝撃から目を覚ませば、妖夢が直ぐ目の前に。
驚きと同様が交じり、反射的に竹刀を突き出すが、狙いを定めていない突きが当たるわけもなく。
妖夢が振う竹刀を屈んで避ける。髪の毛が斬圧で数本持っていかれる。
必死で避けた先には、またも妖夢の蹴りが待ち受けていた。
今度はさっきと逆に上体を起こすようにして避けるが、
「いっ!」
妖夢は土を蹴りあげていた。その土は目に入り込み、視界を奪う。
怯んだその隙には足払いを掛ける。
成す術も無く、地面に仰向けに倒れ込む。
危険。兎に角動かなければ。
そう思い、転がって一先ず逃げようとするが、
「終りです」
ぞくりと感じる冷たい死の気配。首筋に竹刀を当てられる。