東方無風伝 3
「いやはや、やっぱり妖夢は強いなぁ」
「伊達に何年と剣を振ってはいませんよ」
模擬訓練は終り、休憩がてら桜の幹に腰掛け言う。
「なぁ、妖夢」
「なんでしょうか」
「前々から気になっていたんだが、それは一体なんだ?」
『それ』と称して指を刺した先に有るのは、まるで大きな白玉に尾っぽが生えたような奇妙な物体。それは意思でもあるように、常に妖夢の近くをふよふよと浮遊している。
こうして見ていると、なんだかペットのように可愛らしく思える物体。ちょっと触ってみたい。
「ああ、これは私の半霊です」
「半霊?」
「私は、生まれながらの半人半霊なんです。半分生きてて、半分死んでる。それは私の死んだ半分です」
ほう、と短い納得の息とともに、改めて白玉を見つめる。
これが、半分の『死』か。そうか、これは霊魂だったのか。
「こうしてみると、なんだか美味しそうな白玉だな」
「白玉って言わないで下さい! 幽々子様だって時折食べようとするんですよ」
「ははっ……は?」
てっきり妖夢の冗談かとも思ったが、よく考えなくても、妖夢がそんなつまらない冗談を口にするか? 答えは否。
……西行寺、恐るべし子!「霊魂なんて、食べれるはずもなかろうに」
しゃがみこみ、半霊と目線(?)を同じ高さにして言う。触ろうと手を伸ばすが、触れることなく、半霊の中に沈み込む。
半霊の中は、人肌より少し冷たい程度の暖かさを持っていた。幽霊は冷たいと言うが、これは妖夢が半分生きているからその分暖かいのかね?
「幽々子様なら、可能ですよ。あの人も死人ですし」
ばっと妖夢に顔を向ける。
「なんだと?」
「幽々子様は亡霊ですよ。ご存じ無かったのですか?」
「なんと……」
そいつは驚いた。
西行寺の元気そうな態度は、何一つとしてそんな様子を見せなかった。
何より、形が違う。
「幽々子様は亡霊です。幽霊と
は違います」
「その違いは?」
「幽霊は、ただの死んだ生物でしか有りません。しかし亡霊は、それに加え強い念を持っています。もっと生きたいとか、誰かを恨んだり、死んだことに気がつかなかったり。そうした死人が、亡霊になるのです」
「西行寺もそうだと?」
「いえ、幽々子様はまた別です。と言っても、私も詳しくは知らないのですが」
そう言う妖夢の表情は少し悲しげだった。
それは、主人を哀れんでか、それとも――――。