東方無風伝 3
ふぅ、と溜め息を一つ吐き、覚悟を決める。
「いち」
カウントダウン開始。
「にいの」
腕に力を込める。
「さん!」
斬! と言う切断音が響いた。「え?」と驚く暇も無く、もう一度。
階段の上で、何かが起きている。
それを確かめるべく身体を持ち上げ、階段の上へと顔を持ってくれば、生温かい液体が頬に触れる。鉄臭く、ぬるりとした感触。赤い色。
血。
一体誰の?
「ぎぃあん!」
野犬の悲鳴が響いた。
その声に釣られて顔を上げてみれば、悲鳴を上げたと思われる野犬に、一本の棒が突き刺さっていた。
いや違う。あれは棒なんかじゃない。
白銀に輝く、ありとあらゆるモノを切断する刀だ。
それを持つのは、一人の少女。
少女は野犬を蹴り飛ばし刀を抜くと、振り返って一閃。鼻先を切られた野犬を悲鳴を上げ仰け反る。
一歩、少女は距離を詰め紫電を作り上げる。紫電をなぞる様に野犬の血が舞い上がる。
残る野犬は三匹。
少女と野犬は距離を取り対峙する。野犬は先程の俺にしたように、じりじりと包囲しようとするが、如何せん数が少なすぎる。
少女は一瞬で左端にいる野犬に詰め寄り、一閃。その横にいたもう一匹が直ぐ様反応し、飛び掛かるが、少女は冷静に対処した。
飛び掛かった野犬に対し、一歩後ろに下がり膝蹴り。歯を何本かへし折られた野犬は、痛みに悶えのたうち回った挙句、階段から落ちて行った。
残る一匹。
少女は鋭い眼光で一匹を睨みつければ、野犬は相当に恐かったのだろう、踵を返し逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
少女は俺に目線を変えると、そう問いかけてきた。
「ああ、大丈夫だ。助かったよ、有難う」
「どういたしまして。お手伝いしましょうか?」
「いや、このくらい一人でも上れる」
証明でもするように軽やかに階段の上へと上がる。
「おや、君のことを忘れていた」
足に噛みついたままの野犬A。俺と一緒にぶら下がったままだから、何が起きたのかを把握していないのだろう。
その眼が忙しなくいったりきたりを繰り返し、噛みついたまま状況把握をしようとしていた。