東方無風伝 3
妖夢の振るう竹刀を、寸でのところで屈んで避ける。
朝、何時も通りに妖夢との竹刀による稽古を行っていた。
屈んだ体勢から右足を前に踏み出し、低い位置から竹刀を振るう。
上体を反らし避けたと言うのを視認して、更にもう一歩踏み出し左手に持ち変えた竹刀を横殴りに振るった。
竹刀を構え、触れたと同時に受け流される。
そうして生まれた隙。
妖夢は竹刀を振りかぶり、縦に振るおうとする。
左手で受け流された竹刀で防ぐのは出来ない。
だからと言って、一度退いて体勢を直す隙を与えるのは芳しくない。
もう更に、足を踏み出す。
「みょっ!」
身体が触れ合うような、余りにも近すぎる数センチメートルと言う距離までの接近。
こうまで近いと竹刀を振ることは出来ない。
無論、俺とて例外では無く、攻撃することは出来ない。
妖夢はバックステップで距離を取る。それに合わせるように接近する。
離れても近付いてくる。攻撃しても、尚近付く。
今回の俺は、方針を決めてみた。
それが、徹底的な攻めに回ること。
竹刀を持つ右腕を引いて、打ち出す。
その突きは妖夢の頬を掠める。
「のぉ!」
妖夢が繰り出した突き。
半身になりそれを避けるが、足が縺れ身体が倒れる。
仰向けに倒れたが為に、妖夢の次の行動が視認出来る。
あぁ、仰向けに倒れたからこんな絶景が。今日の下着は白か。シンプルなのもまた良し。
等と妄言を吐く暇無く、頭に向かい落とされる竹刀を首を曲げて避ける。
両手を頭の横に着け、勢いをつけたハンドスプリングで立ち上がる。
だがこの位置関係。
今俺は妖夢に背を向けている状況になる。
前に飛び込み前転をして、妖夢と距離を取りつつ、足が地面に触れた同時に振り替える。
「ぬぁ!」
妖夢は直ぐ其処まで迫っていた。
妖夢が持つ竹刀は居合いの様に振られ、俺の右手首に当たる。
右手が竹刀の勢いに押され大きく左に動き、手から竹刀が離れる。
次の瞬間には、首筋に冷たい風を感じる。
極数センチメートルのところに、竹刀が有るのだ。
「……降参だ」
両手を上げ、己の敗北を宣言した。