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国城 龍耶
国城 龍耶
novelistID. 24182
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東方無風伝 3

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「ふぁ……」

 と最早日課となりつつある欠伸を西行寺は礼儀悪く大きくする。どうせ誰もみていやしない。

「元気ねぇー」

 独り言を呟き、妖夢と風間の稽古を見つめる。頬杖をついて、本当に退屈そうに。

「あら?」

 そんな彼女の視界に、一匹の蝶が映り込む。何処から来たのだろうか。幾ら白玉楼が『春』と言えど、此処は幽冥の世界。新しい命が芽吹くような場所では無い筈だが。

「……」

 彼女は、どうせ考えても答えは出ないと思い、考えるのを止めた。きっと下界から迷い込んでしまっただけだろうと思うことにした。
 蝶は当ても無くふらふらと彷徨い飛び回り、やがて西行寺の肩に止まった。

「……頑張るわねー」

 それは竹刀を振っている風間に向けて放った言葉。しかしその言葉は彼に届くはずもなく、結果それは独り言となる。

「本当ねー、どうしてあんなに頑張れるのかしら?」

 西行寺自身、それは解っていた為、自身が呟いた独り言に返事が有ったのに少しばかり驚いた。とは言っても、彼女にはこれは日常茶飯事の出来事。さして同様などはしない。

「何時の間に来ていたの」

「たった今よ」

 西行寺はその声へと問い掛ける。その返事は短く素っ気ないものだったが、彼女は気にしない。
 自身の背後に在る気配。それが声の主だが、声の主が背後に『いる』もまた何時ものこと。振り返って確認もしようとしない。
 それでも、西行寺には声の主が何故此処にいるのか、何をしているのか解っていた。

「面白そうでしょ? 彼」

「噂通りの外来人ね。これなら楽しめそうね」

 すっ、と静かに動く気配。

「少し遊んでくるわ」

「程ほどにね。妖夢に怒られない程度に」

「ええ、勿論よ」

 そして気配は完全に消える。
 元通り、西行寺だけの静かな空間へと変貌する。

「あらっ」

 ふと気が付けば、妖夢と風間の稽古は終っていたようで、二人とも休憩している様子が見えた。
 ならば、西行寺は行動するまで。つい先程まで共に話していた声の主を、少しばかりの手助けをする為に。
作品名:東方無風伝 3 作家名:国城 龍耶