東方無風伝 3
抜いた鬼灯を半ば引き摺るように、弾幕を避け、時に被弾しながらも突き進む。被弾した弾幕は爆ぜるが、少し痛い程度のもので耐える事は出来る。
強引に押し進む先にあるのは、弾幕の発生源である異空間。
狙うは、あの異空間の先だ!
「うらぁ!」
鬼灯は、異空間に吸い込まれるように真っ直ぐに貫いた。
――――静寂。
あの無限の弾幕の放射は収まり、新たな異空間が生まれることもなく、全てが時を止めたかのような静寂だけが響く。
何処か異様な雰囲気からか、身体は動かず、鬼灯を異空間に突き出したままで固まる。
静かに舞い踊る桜の花びらが、鬼灯に触れる。花びらはまるで吸い付くかのように鬼灯の上で静止した。
額を流れ、頬を滑り、顎から垂れる汗。
汗がとうとう顎から離れ、宙を落ち、地面にぶつかり、幾数の滴(しずく)となった時、『それ』は
始まる。
――――ずっ。
何処から聞こえたその音。まるで、五臓六腑を引き摺る様な音。そんな気味悪い音に怯むように、鬼灯を抜いて異空間から距離を取る。
何が起きている?
何処か息苦しさがあり、自然と呼吸が荒くなる。汗は相変わらず止まらないが、何故か身体は寒気を訴える。
何より苦しいのは、心臓の鼓動が速いこと。
「何が――――」
何が起きると言うのだ?
まだ起きていないその現象にこうまで怯えるのは、動物の生存本能が為(な)すものだろう。
異常を訴える五感。そして、今すぐ逃げろと叫ぶ六感。
――――ずっ。
再び響くその音。見れば、鬼灯を突き出した異空間が閉じていく音だった。
……静寂。
これで終りなんて筈が無い。何故なら、未だに感覚は異常を訴えているから。
ごぱぁっ!
それはまるで津波のような音だった。
其処に在るのは、相も変らぬ異空間だが、その数が桁違いに増えていた。
その数は数千にも及ぶだろう。
異空間は俺を完全に取り囲むように作られていた。
――――そうして、合図が有ったかのように、全ての穴から、一斉に弾幕が狂ったように飛び出してきた。
そんなものを避けることなんて不可能だった。異空間が現れた時にはそれを察し、既に諦めていた。