東方無風伝 3
「肩、貸しましょうか?」
「いや、其処までしてくれなくても結構」
よいこらせ、と立ち上がるが、やはり噛まれた足は痛む。仕方が無い。噛まれた足を引き摺るように歩くしかない。
「それで、君のお屋敷は、上かい? それとも、下かな」
「上です。なに、此処まで上ってれば、直ぐに見えてきますよ」
「そいつは良かった」
少女が先導し、それに着いて行く。先導と言っても、道は前にしかないけどな。
「そう言えば……えっと」
「ああ、自己紹介をしていなかったな。風間と呼んでくれ」
「妖夢です。魂魄妖夢。えっと、風間さんは、どうして此処に? この先は冥界ですよ。見たところ風間さんは生者なようですが」
「ああ、それか。なに、この先の白玉楼とやらに用があってな。その道中に奴らに襲われた」
「白玉楼?」
少女、いや妖夢が聞き返した。
「ああ、そうだが。知ってるところか?」
「知ってるも何も、私の主が住むお屋敷です。私は其処で庭師をしてまして」
「おや、本当かい。それは何と言う幸運。それなら、面倒事はすっぱ抜いて行けそうだな」
「ええと、一体どうして?」
「ああ、白玉楼には剣術に長けた者がいると聞いてな。少しばかり、剣術を教えてもらいたく」
そう言えば、妖夢は何処か困ったように首を捻って考え始める。
「それって……」
「そうだ、妖夢は白玉楼に住まわせてもらっているんだよな。もし良ければ、紹介してもらえないか」
「それ、私の事ではないでしょうか」
「……あー、そうか」
そう言えば、妖夢は野犬を撃退した時、刀を使っていた。それが立派な証拠である。どうして俺はその時に気がつかなかったのだろうな。
「……」
「……」
何故か気まずい空気が流れる。
「まぁ、その何だ。良かったら、教えてくれると有り難い」
「ええ、勿論です。その時はこちらもよろしくお願いします」
こんな幼い少女が、剣の達人として語られるとは、噂は真実と誤って伝えられるが、まさかねぇ。
見た目年齢が幼くても、中身はそれにそぐわぬものを持つというのは、何度だって見てきた。が、聞いた話は所詮噂に過ぎなくて。
さて、噂は真実か虚実か。どちらなのだろうかねぇ。