東方無風伝 3
「見えてきましたね。あれが白玉楼です」
「おお、あれが」
妖夢がそう言って指差す先に、その白玉楼が在った。
「また随分と広いんだな」
まだ白玉楼まではまだ百メートル程は有ると言うのに、白玉楼を囲む塀は高く長く広いのが解る。
ざっと……三百メートルでも足りなさそうだ。
「あれ全部白玉楼か」
「はい。あれだけ広いと、庭師としてもとても大変で」
はにかみながら言う妖夢だが、その言葉には嘘は含まれていないようで。
「まさか、妖夢一人で」
「はい。白玉楼には、基本私と主である幽々子様しかいませんから」
ほう、と短い感嘆の声が漏れ出る。
妖夢が主と呼ぶのなら、その人物こそがこの白玉楼の主でもあると言うことなのだろう。
「妖夢、良ければその幽々子様とやらのことを教えてもらってもいいかな?」
「え? 良いですけど、なんで」
「白玉楼の主なのだろう、その人は。ならば、無礼がないようにその人のことを知っておきたくてな」
「なら、問題はありませんよ。幽々子様はそんなの気にしませんから」
「そうか。なら、気楽に行かせてもらおうかな」
「はい、歓迎しますよ」
純朴な笑顔で言う妖夢。
これならきっと、何も気にかけることも無く、白玉楼で修業が出来るだろう。噂が本当ならば。
「とーちゃくっと」
妖夢と雑談を交わしている間に、漸く白玉楼の大きな門の前に到着する。
不用心にも開かれた門の前に立ち、噂の白玉楼を覗き込む。
先ず目の前に聳え立つのが本殿と思われる屋敷。次に映るものは無い。つまり、それほどまでにその屋敷が大きいのだ。
「こちらにどうぞ」
妖夢が戸を開け、その中に案内される。
「しかし、こんなにまで大きいと気圧(けお)されるな。なんだか落ち着かない」
「慣れですよ、そんなの。風間さんは此方に修業をなさりに来たのでしょう。それなら、嫌でも慣れますよ」
あー、それもそうか、と半ば開き直っての返事をする。
これからはこの白玉楼で剣術の修業をするのか……それで俺は強くなることは出来るか、はたまた何の力も付けられないか。
それは、この先の未来でしか知り得ないこと。
さて、それを知る為にその未来へと歩もうとするかね。