東方無風伝 3
「……やっぱり痛いな」
「我慢してください」
妖夢に案内された一室にて、妖夢から怪我の治療を受けていた。
妖夢は手際よく俺が巻いた血濡れの布切れを解き、消毒し、ガーゼを当てて包帯を巻いていくが、消毒液が滲みるわ、少し触れられただけで傷に響くわで、痛覚を刺激される。
治療のためだから止むを得ないことだが、それでも痛いものは痛い。
「そもそも、此処まで歩いてこれたのですから、今更何でも無いでしょう」
「いや、そうだが」
母親が子供に諭すような口調で言われては、返す言葉も無く。
「終りました。私はこれから幽々子様に風間さんのことを伝えてきますので、暫く待っていただけますか」
妖夢はそう言って、部屋を出て行く。
そうして一人になったわけだが、特にやることもなく、落ち着きもせず。
部屋を見渡しても、ごく普通の和室と言ったようで、伽藍胴としていて特に面白そうな物もなく。
どれそれじゃあ、と言わんばかりに、外に面する障子を開ける。
「おお、これは絶景」
本殿は中庭を囲むようなコの字型になっており、その中庭は枯山水の中に、松の木が植えられている。その奥に低い塀。『和』を強調し重んじた『作品』であろう。
中庭の先、コの空いた穴の先には低い塀が有り、その先は桜の木々で埋め尽くされていた。
何故あの木々が桜かと解ると言えば、その桜の木々が花を咲かせているから。
「……ん?」
そう言えば今は冬。桜は春の暖かい陽気に当てられ咲く筈だ。この時期に咲くのはおかしい。
この白玉楼にきてから、気になっていたことがある。
それは、暖かいと言うこと。そこそ、春の暖気のように。
此処は冥界である。先程まで俺がいた世界とは違う。だから、暖かいとでもいうのだろうか。
「……んー?」
それでも、俺が持つ『あの世』のイメージとは異なる。
冥界と聞けば、其処はおどろおどろしく、薄暗く気味の悪い、と言うイメージが有った。だが、此処は正反対だ。
暖かい春の陽気に包まれ、来た者を優しく包みこむような美しい桜の木々。そうだ、此処は極楽浄土だ。
同じあの世でも、天国と呼ばれるような。
まさか、此処がそうだとでも言うのか。