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ブルーバード

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<10>

 土方の顔は苦々しいという形容がぴったりだった。別段変なことを言ったつもりはなかったのだけれど、ただでさえ大きな目をさらに大きくしている沖田を前に、やっぱり血迷ったことを口走っただろうかと土方は後悔する。けれど、やはり土方にしてみれば至極率直な意見だったのだ。小鳥を目の前にしていると、そこ居もしない沖田のことばかり浮かんでくる。
 土方の予想以上に驚いた様子を見せた沖田は、やがて少し瞳を細めておかしそうに言った。
「やっぱり似てやすね」
「あ?」
 沖田の言わんとしていることが分からなくて土方は眉を寄せる。
「なにが似てるって?」
「土方さんと旦那でさあ。似てるっていうより思考回路が同じっつーか?」
「…おい、なんで俺が糖分のことしか考えてねェような奴と同じ思考回路だとか言われなくちゃなんねェんだよ」
「だって、旦那に言われたんですよ。俺の目の色と鳥の色が同じだって」
「………は?」
 だから土方さんも無意識に小鳥と俺を重ねてたんじゃねェですかィ。そう言って沖田は土方を揶揄するようにけらけら笑う。けれど、土方の脳にはその笑い声も沖田がすらすらと続ける言葉も届いていなかった。
 銀時と思考回路が同じだと言われたことにだって腹は立ったが、もっともっとむかつくことがある。今、沖田の口から聞くまで気づきもしなかったこと―――確かに、小鳥は沖田の瞳の色と同じ色なのだった。
 波が引くみたいに視界が薄まっていくように錯覚する。どうして気づかなかったんだと土方は自問したが、答えは明白だった。もうずっと、沖田の目を見て話していなかったからだ。
 小鳥と沖田を重ね見ていたのは、憎たらしい語彙ばかりを披露したり土方の仕事の邪魔をするからだと、土方はそう判断していた。けれど、もっと決定的な理由があったのだ。土方が特別に好んでいた沖田の瞳は澄んだスカイブルーである。その色を、土方はずっと追いかけていたのだ。
(こいつが傍にいない間もずっと…)
 そこまでのことをほんの数秒の間に認識したからか、思考の展開に感情が追い付かない。悔しいやら腹が立つやらそして死にたいくらい恥ずかしいはで、そういった感情ばかりが加速度的に膨張してもはや何に対してそのような感情を抱いたのかさえわからなくなる。土方自身でももうどうしようもなかったのだ。だから「旦那が」と沖田が口にした瞬間、その胸倉をつかんで引き寄せるなどという強硬手段に出てしまった。
「ちょっ…―――」
 勢いに任せてくちびるを塞ぐと当り前に沖田の言葉が途切れる。ついでに、ばかみたいに高速で展開されていた土方の思考も途切れた。自分の衝動的な行動に対する論理的な弁解も説明もつけられない。
「………倦怠期は?」
 乱暴なキスに怒るでもなく、もちろん喜ぶでもなく、解放された沖田は少し上にある土方の目を見つめて問う。その目をまっすぐ見返して、この距離は一体いつ振りだろうかと土方は思った。沖田の瞳に馬鹿な自分が映る距離。そしてきっと、土方の瞳の中にも沖田がいる。
「終わった。」
 土方は憮然として言って、もう一度、今度は乱暴な口づけじゃなくて熱を分け合うみたいなキスをする。うっすらと目を開けると、沖田がしっかりと目を閉じているのが確認出来た。
 何が倦怠期だ、と土方は自分に呆れ果てて死にたくなった。ずっと近くにいたから、それ故相手の存在に鈍感になっていたのは本当だ。けれど決して、手放したいと思ったわけじゃない。それに、今更沖田の存在なしではもうどうにもならないことだって明白だった。沖田の姿を無意識に求めて鳥に「総悟」などと呼びかけてしまった、その時点で。
 自分から沖田を遠ざけるような態度を取っておきながら、その一方で真逆のことをやっていた。もしも人間が羞恥で死ねるのならば、間違いなく土方は今この瞬間に100回くらいは死んでいる。
 それでももう、沖田から目をそらすことはしなかった。いや、出来なかった。
 正面からまっすぐに沖田を見つめて大事なことを問う。
「お前はどうなんだよ」
「と言いますと?」
 くちびるを指先でなぞっていた沖田がわざとらしく首をかしげる。
「倦怠期だとか言い出したのはお前の方だろうが」
「そうでしたっけ?」
「…鳥頭」
 茶色の髪を乱暴にかき混ぜて、そのからっぽの頭を胸に抱き寄せる。真剣に問いかけたところで、(わざとか本気かは知らないが)沖田が適当な返事しか寄越さないのは今に始まったことではないのだったと土方はいやにしみじみ思う。
 沖田は、恥ずかしがるでもなく喜ぶでもなく、ただ当り前の顔をして土方の腕の中に居た。こういう風に二人で体を寄せるのだってものすごく久しぶりなのだから、もう少し他に反応があったって良いのではなかろうかとも思うけれど、よくよく考えてみれば沖田が倦怠期と称した期間のその長さなど、土方と沖田が一緒に過ごしてきた時間に比べればあまりにも短いものだった。そのことを悟って土方は、知らず安堵にも似た溜息を吐く。
 溜息は、沖田の名前を呼ぶための準備運動みたいなものだった。だから今回も土方は、わずかに沖田が身じろぐのを腕に感じながら、久方ぶりに彼の名前を呼ぼうとゆっくり口を開く。
「そう、」
「ソーゴ!」
 けれど、まるで土方の言葉を横からさらう様にして小鳥が叫んで邪魔をした。


作品名:ブルーバード 作家名:まや