赫く散る花 - 桂 -
倉庫の出入り口付近にいた桂と佐一郎も同じように帽子を脱ぎ捨てた。倉庫のまえで見張りをしていた惣兵衛の部下を銀時と桂が難なく倒し、彼らの衣装を手に入れたのだった。そして、それを身につけると、倉庫内に侵入した。今までずっと惣兵衛の部下のふりをして惣兵衛と天人のやりとりを見ていたのだ。
新八と神楽はいない。もちろんふたりは一緒に行くと言ったのだが、桂が止めた。屋敷で働いているのだから惣兵衛と面識があるだろうし、それに、惣兵衛が悪人だとしてもふたりを雇うことを決めた奥方は悪くない。ふたりが惣兵衛の悪事を暴くのに荷担していて、しかも、そのふたりを屋敷内に入れてしまったのが自分であることを知れば、奥方は傷つくだろう。そう桂が言うと、新八と神楽はしぶしぶ引き下がった。
「これを見てください」
佐一郎が惣兵衛のまえに進み出た。
「清吉君の遺書です。僕に送ってくれました」
きりりとした顔つきで佐一郎は告げる。
すると。
「……清吉、やはり遺書を書いていたか。あの恩知らずが!」
忌々しげに惣兵衛は吐き捨てた。
それを聞いて、佐一郎は惣兵衛を睨みつける。
「この遺書にはあなたに対する恨み言は一切書いてない。ただ、自分が犯罪に関わっていることが、人々を苦しめているのがつらかったから死を選んだんだ。そんなふうになるまであなたに尽くしてきた清吉君は決して恩知らずなんかじゃない」
死んでしまった友人のために佐一郎は懸命に主張する。
しかし、惣兵衛はフンと鼻を鳴らす。
「わしのためを思うのならば黙って死ねばいいものを。遺書なんぞ書くから恩知らずだと言っているのだ」
「あなたは最低の人間だ!」
遺書を持つ佐一郎の手が震えている。怒りが全身を支配しているのだろう。
「……そいつになに言ったってムダだと思うぜ?」
銀時が口を挟んだ。
「話が通じる相手じゃねェ」
冷たく突き放すように言った。
だが、その相手である惣兵衛はニッコリと笑う。銀時や佐一郎に非難されても、痛くもかゆくもないといったところか。
「清吉が誰かに話していないか書き残していないか、ずっと心配していた。それが、遺書を持って現れるとは好都合。飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ。さあ、お前たち、あの三人の口を永遠に塞いでしまいなさい」
惣兵衛は部下に指令を出した。
それに即座に反応して、黒いスーツの男たちが不穏な空気を漂わせて近づいてくる。
桂は刀を、銀時は木刀を構えた。
一方、佐一郎は持ってきた木刀を構えようとはせず、口を開く。
「それでいいんですか、本当にこんなことがしたかったんですか!?」
真剣な表情で訴える。
「違うでしょう。清吉君のようにやりたくないのにやらされているだけなんでしょう。ねえ、考えてみてください。あなたたちにとって惣兵衛さんは尊敬できる良い人なのかもしれませんが、その良い人があなたたちにこんなことをさせるなんておかしくないですか」
すると、佐一郎の説得が心に響いたらしく、惣兵衛の部下たちは足を止めた。
その様子を見て、惣兵衛は初めて慌てた。
「なにをしておる、早くやれ!」
苛立たしげにそう命じたが、部下たちは動かない。
「これまで面倒をみてやったのに恩知らずが!」
そう喚き、懐に手を入れてなにかを取り出した。拳銃である。
「貴様が余計なことを言うからこうなった。わしが始末してやる」
惣兵衛は銃口を佐一郎に向けた。
桂は眼を見張り、とっさに刀を右手に持って佐一郎に飛びかかる。惣兵衛に背中を向けた状態で、佐一郎を床に倒す。
直後、銃声がした。それは数回続いた。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio