赫く散る花 - 桂 -
だが。
いくら体勢を低くしていても何発かは撃たれるだろうと覚悟していたのに、痛みはなかった。
桂は惣兵衛のほうをふり返る。
そして、驚いた。
眼のまえには銀時の後ろ姿があった。
桂と惣兵衛との間に銀時が立っていた。
嘘だろう、と桂は思う。
あの位置に立っていたのなら、確実に撃たれたはずだ。
銀時の身体がぐらりと傾いだ。そのまま床へと崩れ落ちる。
即座に桂は駆け寄った。
「銀時!」
呼びかけても銀時は返事しないどころかピクリとも動かない。
脈を確かめなければと思うのに、そうしない。
もしも脈がなかったら。
桂はギロリと惣兵衛を見た。
ゆるさない。
惣兵衛は震え上がり、弾切れらしい拳銃を床に落とした。
頭のなかが煮えたぎるような怒りと憎悪だけの状態で桂は飛び出そうとする。
しかし。
その時、誰かが桂の足首をつかんで止めた。
邪魔だ、と桂は足首をつかむ者をにらむ。
だが、足首をつかんでいたのは銀時で、桂に向けてかすかに笑って見せた。
「……お前、さ……ただでさえ、変な異名……持って……んだから、……やめとけ」
そう途切れ途切れに言うと、銀時は眼をつむった。
知っている、と桂は思う。
銀時は知っている、と確信した。
あの異名がついたわけを。
桂のなかで憎しみが急速に冷めていった。
そして、ふたたび惣兵衛のほうを向く。
惣兵衛と政府高官の天人は後退していて、その代わり、宇宙船の乗組員たちが桂に近づいてきていた。
桂は彼らのほうへ前進する。
襲いかかってくる乗組員たちを的確に討ち取っていく。
殺さないようにして。
複数の敵を一度に相手しながら、逃げる惣兵衛たちの背中を追って突き進む。
ついに、乗組員たちのほとんどが倒され、倒されていない者は怯えて逃げてしまった。
倉庫内はある程度広いが、逃げ回るのには不向きだ。
追いつめる。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio