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赫く散る花 - 桂 -

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「……天人を斬った記憶はあるんだが、どこをどうしてという具体的なことはなにも覚えていない。我に返った時には血の海だった」
 淡々と銀時に話し続ける。
「仲間の俺を見る眼には怯えがあった。俺が鬼にでも見えていたのかも知れんな」
 その後、桂は仲間たちから遠ざけられるようになった。必要があって話をする際には、腫れ物に触るかのような態度を取られた。
「結局、俺は軍を抜けた。それから、違う軍に入った。一からやり直すつもりで。新しい軍の仲間とようやく馴染んできて、そしてお前にも出逢って。もう二度とあんなことはしないと心に決めていて、それをずっと護っていたから、以前ほどは思い出さなくなっていた。だが、いつの間にかあの異名でもって俺は呼ばれるようになった。過去が俺を追ってきたと思った。忘れるな、お前のしたことは決してゆるされないのだと言われているように感じた」
 あの村で天人どもを残虐なまでに斬る桂を見た者には、桂はキレると冷酷無比の鬼になると思ったのだろうか。まさしく、狂乱、な状態になってしまうと。
「だから、俺はあの異名を否定しない」
 ヅラと呼ばれれば否定するが。
 狂乱の貴公子は、貴公子はともかくとして狂乱のほうは確かにそうだった瞬間があり、そしてそれを戒めとして生きていかなければならないから、嫌な異名ではあるが否定することはできない。
「……あの時、俺を止めてくれて助かったよ、銀時。お前が止めてくれなければ俺は同じ過ちを繰り返してしまったかも知れん」
 銀時が撃たれて、床に倒れて、桂が呼びかけても動かない、そんな様子を見て、桂の理性は完全に吹き飛んでしまっていた。
 とっさに銀時が桂の足首をつかんで止めなければ、おそらく激情に押し流されるように残酷な振る舞いをしてしまっただろう。
「……そいつァどうだろうな」
 ずっと桂の話を静かに聞いているだけだった銀時が言った。
 桂は眼をあげ、銀時を見る。
 銀時はまえを向いていて、桂のほうを見ずに口を開く。
「お前は確かに短気だ。カッとなるとまわりが見えなくなってるようなことを言ったりしたりする。だが、お前と出逢ってから今まで、お前が狂乱と言われなきゃならねーぐらいの状態になってんの、見たことがねェ。あん時は一応止めたけどな、頭に血ィ昇ってるみてーだから勢いを止めておこうと思っただけで、お前があいつらをなぶり殺しにするだろうって考えたわけじゃねーぞ」
 そこまで言うと、銀時は桂を見た。
 そして。
「お前が心配しているようなことには二度とならねェよ」
 真っ直ぐな眼差しを桂に向け、きっぱりと告げた。
「どうしてそう言い切れるんだ」
 桂は同じぐらいの強さで銀時の眼を見返す。
 すると、銀時はふっと表情を緩めた。
「つき合いが長いのか長くねェのかわからねーけどよ、お前のことはよく見てたからな、自信があるんだよ。もしかしたら、お前本人よりも俺のほうがお前ェのことわかってるかも知れねェぞ?」
 軽い調子で告げる。
 桂も表情を緩めた。
「……お前は本当に諦めが悪いな」
「まーな。だから、俺が諦めるか、俺が諦めるのをお前が諦めるか、根比べしようぜ」
 それは俺のほうが分が悪い、と桂は思ったが口には出さなかった。
 桂が黙っていると、銀時は視線を正面に戻した。
「喋ったら喉渇いちまった。いちご牛乳くれ」
 そう言って、手を差し出す。
「えらそうだな、お前は」
 不機嫌な声で桂は返事する。
 銀時がふたたび桂のほうを向く。
「お前もいちご牛乳飲んでもいいからさァ」
「そんな軟弱なものはいらん。だいたい俺が持ってきたものだろうが」
「俺がもらったんだから、もう俺のもんだ」
 それは正しくて、残念ながら反論する言葉が思い浮かばない。
 仕方なく、桂はいちご牛乳を銀時に渡してやることにする。
 そして、冷蔵庫を開け、そのなかにあるいちご牛乳を見た時、なんだか妙におかしい気がして桂は少し笑った。
     








作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio