赫く散る花 - 桂 -
桂はため息を吐きたくなる。
こうやって、この男は自分をとらえるのだ。
隠しておきたい想いすら引き出してしまうのだから、かなわない。
「銀時、お前が百日通う目的はなんだ」
そう問いかけた。
そして銀時が答えるまえに、桂は口を開く。
「お前の目的が俺の心を動かすことなら、もうとっくに動いている。だから、ムダだと言ってるんだ」
思い切って、伝えた。
心臓が強く鳴っている。
心が、鳴っている。
彼女が死んでしまった時に死んだと思っていた心のなかのある部分が、生きていると訴えている。
しばらく、ふたりとも無言で立ちつくした。
先に動いたのは銀時で、桂のほうに近づいてくる。
「……それ、本当か」
あと少しでぶつかる距離で足を止め、銀時がたずねた。その声はかすれていた。
「ああ」
きっぱりと桂はうなづいた。
直後、銀時の腕が持ちあげられるのが見えた。
その腕から逃れるように、桂は後退る。
銀時を見据えて、言う。
「だが俺は、熱病ならいらないんだ。いつか醒めてしまうものだったら、欲しくない」
すると、銀時はふたたび近づいてきた。あっという間に距離が縮まる。
銀時は立ち止まり、桂の眼を見た。
「信じて、くれ」
そう告げた。
桂は表情をふっと緩める。
「……頼まれなくてもお前のことは信じている」
信じていたからこそ裏切られたと思った時期もあったけれど。
銀時は裏切ったわけではない。
それを今はよくわかっているから。
本当はとおの昔に桂の心は動いていた。
おそらく、銀時が泣くのを見た時から。
あれだけ求められたら、それに応えるように心は動く。だが認めたくなくて、あの時に銀時に向かってあげた手を途中で下ろし、途中で下ろさずに銀時の背を抱いた時は今だけだと言い、そして今まできたのだけれど。
もう誤魔化しはきかない。
認めて、進もうと決めた。
銀時の腕があがる。しかし、今度は逃げず、そのままでいる。銀時の指が顎に触れる。それでも、逃げない。少し熱っぽい手のひらが顔を持ちあげる。
接近してくる。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio