赫く散る花 - 桂 -
二、
夕方、桂は万事屋を訪ねた。
昨日あんな事があったので、銀時と顔を合わせたくなかった。
けれど、津倉屋惣兵衛と懇意の政府高官は誰なのかを聞きそびれてしまって、それが気になって仕方ないから万事屋に行く事にした。新八と神楽が屋敷から帰ってきていて、なおかつ、銀時がまだ戻ってなさそうな時刻を選んで。
だが、桂の予想は外れた。
銀時が万事屋にいた。
その姿を見て、桂は一瞬動揺したが、それを顔には出さないようにしつつ心を静めた。
いつものように接した。
銀時も普段と変わりない様子だった。
津倉屋惣兵衛と癒着している政府高官の名前を聞き出し、今後どうしていくのかを話し合った後、桂は帰る事にした。
すると。
「送ってく」
そう言って、銀時は専用机に手をつき、立ちあがった。
桂は眉をひそめた。
「ひとりで充分だ」
「話してェことがある」
俺にはない、と桂は言い返そうとしたが呑み込む。それを口に出せばどうしたって刺々しい雰囲気になる。新八と神楽がいるまえでは避けたかった。なにかがあったと気づかれたくない。
桂が黙ったまま立っていると、銀時が近づいてきた。
結局、ふたりで万事屋を出た。
銀時は無言で歩いている。
話したいことがあるのではなかったか、と桂は問いただしたくなった。けれども思いとどまる。
昨日見た泣き顔が脳裏に浮かんで。
あれを他の者に言わぬよう頼むつもりなのかと思った。だが、口止めするにも、泣いたことに触れなければならない。それで言い出しにくいのかも知れない。
もっとも、桂は口止めされなくても誰にも言うつもりはないのだが。
黙々と歩き続け、やがて、桂が二階を借りている二階家が見えてきた。
その家のまえまでくると立ち止まる。
「……じゃあな」
銀時は身体の向きを変え、来た道を帰ろうとする。
え、と桂は眼を見張った。
「口止めするつもりではなかったのか?」
「は?」
銀時は足を止め、怪訝な表情でふり返る。
「一体ェなんの話だ」
「話があるから一緒に来たんだろう。昨日のことを口止めしたいのではないのか」
「……なるほど、そーゆーことか」
視線を道に落とし、銀時は呟く。
そして、眼を上げた。
「口止めなんざする気はサラサラねーな。誰かに話したきゃ話せばいい」
真っ直ぐに桂を見る。
嘘のない強い眼差し。
「俺ァ、口止めしなけりゃならねェような恥ずかしいことをしたとは思っちゃいねェ」
そう銀時は言い切った。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio