赫く散る花 - 桂 -
見当違いのことを言ってしまったのか、と桂は少し悔いた。
けれど、肝心な部分が依然として不明だ。
「では、話したいこととはなんだ?」
「そりゃ、ただの口実」
「……は?」
「送りたかっただけだ。諦めきれねェって言っただろ?」
銀時はニイと笑い、まるで冗談のように軽く言った。
どうして、と桂は思う。
どうして俺なんだ。
「……んじゃ、帰るわ」
ふたたび銀時はくるりと向きを変える。
そして、歩き出す。
しかし。
「……なんだ?」
銀時は足を止め、ふり返って、問う。
その声に桂は我に返る。手がいつの間にか銀時を追って、袖をつかんで引き留めていた。慌てて、袖を放す。
一体、なぜこんなことを。
自分のしたことに対して困惑する。
それに、銀時になんと説明すればいい。どう取り繕えばいい。
うまい言い訳がまったく浮かんでこなくて、焦るばかりだ。
眼を伏せ、ひたすら考える。
ふいに。
「……夢を見るんだ」
そんな台詞が口を衝いて出た。
言ってしまってから、桂は内心ひどくうろたえた。なぜ銀時を引き留めてしまったのかわからないし、その上、なぜ脈絡のないことを口走ってしまったのかもわからない。どうかしていると思った。
その時。
「へえ、どんな夢だ?」
銀時が穏やかな声で先をうながした。
桂は驚く。咎められるだろうと予測していたが、違った。
だから。
「彼女の夢だ」
素直に答えた。
彼女のことは誰にも話すつもりはなかったのに。
けれども口は動き、続きを語る。
「好きだったんだ。彼女のことが本当に好きだったんだ」
過去形で話すのには違和感があった。
しかし、過去のこととして話すしかないのだ。
「幸せであってほしいと思っていた。できることなら俺が、幸せにしたいと思っていた。そして、運良く、縁談がもちあがった。願ってもないことだった。俺は必ず彼女を幸せにしようと決めた」
あの頃はまだ十代で、意中の相手と添えることとなり舞いあがっていた。
それを思い出すのは、悲しい。
なぜなら。
「だが、彼女は死んでしまった。自殺だった」
首を吊ったのだ。
胸が痛い。だから、桂は眉根を寄せる。けれど、どうして、口の端を持ちあげて笑っているような顔をしてしまうのだろうか。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio