赫く散る花 - 桂 -
「直接的な原因は俺ではない。しかし、どうやら俺が最後に追いつめてしまったらしいんだ」
後半は他人事のように言った。
彼女はなにも言わず、なにも遺さずに死んでしまったので、実際に起きたことから推測するしかなかった。
自分のせいではないなどと言うつもりはまったくないけれど。
「昨夜、夢に彼女が現れた」
その顔には濃い影が落ちていて、どんな表情をしているのかわからなかった
せめて夢のなかだけでも彼女の笑っているところを見たかったのだが、それすらも叶わなかった。
「彼女は俺に告げた。うそつき、だと」
朝、眼が覚めて、その言葉を思い出して、苦い想いをした。
「確かに、その通りだよな」
必ず幸せにすると決めていたのに。
現実は、その逆で。
嘘吐きと責められて当然だ。
「……あのな」
今まで黙って聞いていた銀時が口を開いた。
「俺ァ幽霊は苦手だけどな、幽霊と夢は違うってちゃんと知ってるぞ」
「……どういう意味だ」
桂は顔をあげて、銀時を見る。
すると。
「幽霊ってのは他人だ。だが、夢は違う。夢は他人が見せられるもんじゃねェ。自分が見せてるもんだ。だから、夢んなかに出てくる自分以外のヤツは他人であって他人じゃねェ。そいつが喋ったことも、本当はそいつが喋ったことじゃねーんだ。てめェが喋らせたことだ」
そう銀時は桂の眼を見て断言した。
桂はなにか言おうと思ったが、結局、口を閉ざしたままでいた。なにひとつ言葉が出てこなかったのだ。
「そいつが本当にお前ェを恨んでるのかどうかは、それこそ幽霊になって枕元に立ってくれねーとわからねェことだろ」
「……そうだな」
ようやく出てきたのは賛同する言葉。
銀時の話したことが正しいと認めた。
確かにそのとおりなのだから、仕方ない。
それに。
「じゃあ、今度こそ帰るからな」
「ああ」
桂はうなづく。
思い悩んでいた心が少し軽くなっていた。
翌日の空は朝から曇っていた。そして、昼頃、雨が降り始めた。ずいぶん激しく降っていたが、昼を過ぎてしばらくするとやんだ。
桂は昨日と同じぐらいの時刻に万事屋に立ち寄った。銀時はいなかった。まだ惣兵衛に張りついているのだろう。応接間兼居間でくつろいでいた新八や神楽と情報交換すると、桂は万事屋を後にした。
そして今は夜である。
また雨が降っていた。昼よりも激しい雨だ。雨だけではなく風も強い。横殴りに降っているらしい雨が、時折、窓を勢いよく叩く。
ふと、呼び鈴の音が家のなかに響き渡った。
階段を昇ってくるのに気づかなかった。雨と風の吹きつける音に足音がかき消されてしまったのだろう。
桂は立ちあがり、居間から出て玄関に向かう。
「誰だ?」
そう桂が問いかけると、戸の向こうから答えが返ってくる。
「俺」
銀時だ。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio