天の花 群星
高杉はなにか考えるように眉根を寄せた。そして、次の瞬間、軽く鼻を鳴らした。
「……なるほどねェ。そういうことか」
おかしそうに言い、視線を外した。
桂は眼を農民ふたりにもどす。
「我らは食糧を提供しよう。その代わり、今夜はこの山中で野営するつもりだった我らに家を宿として提供してくれまいか」
そう桂が提案すると、農民ふたりは眼を大きく開き、喜びで顔を輝かせた。
「わしらの家で良ければどうぞお使いください。ああ、本当にありがとうございます!」
「ありがとうございます、助かります!」
ふたりは桂を仏と拝みだしかねない勢いで感謝した。
桂は表情を動かさないまま、ふたりに告げる。
「では、さっそく村に案内してもらおう」
「はい!」
即座に農民ふたりは立ちあがった。
桂はあたりにいる志士たちの顔をぐるりと見渡す。
「これより予定を変更し、この者たちの村に向かう!」
その桂の凛とした声は澄んだ空気に満ちた山中によく響いた。
志士たちは、おう、と答える。
そして、攘夷軍は動きだした。
銀時は先に進む桂の横に行こうとした。そのとき、ふと、近くにいた高杉がつぶやくのを耳がひろう。
「一石二鳥、三鳥、四鳥ってとこか」
さらに。
「綺麗な顔をしてるくせに、一番腹黒いじゃねーか」
そう言って、自分の向けられる視線に気づいたらしい高杉は銀時を見返し、にやりと笑った。
暗闇を背負う屋根へとあがると、そこに銀髪頭を見つけた。
桂は瓦の上を歩き、背を向けて座っている銀時のほうへと近づいていく。
背後から自分に近づいてくる者がいるのに気づいているはずだが銀時はふり返らない。
「……今夜はおまえの当番ではないはずだろう」
その横に腰を下ろし、桂はからかうように言った。
「昼に今夜は俺が不寝番するって言っただろーが」
すかさず銀時は言い返してくる。しかし、その眼は遠くのほうに向けられたままだ。
「あれは予定通り野営したときの場合ではないのか」
桂たちは天人軍に襲撃された村の豪農の家に駐留している。運んできた食糧を分け与えると村の人々は大喜びし、ほとんどなにもないなかで精一杯のもてなしをしてくれた。
「侍ってのはなァ、いっぺん決めたこたァ貫き通さなきゃならねーもんなんだよ。つーか、テメーも今夜は不寝番の日じゃなかったはずだろ」
そう指摘されて、桂は軽く肩をすくめる。
不寝番を務める予定の二人一組のうちの片方をこの家の廊下で見かけて、声をかけてみたら、銀時からの申し出があって代わったとのことだった。さらにそのあと不寝番のもう片方が屋根のほうへ行こうとしているのを見かけ、なんとなく呼び止めて、気がついたら口が勝手に動いていて、不寝番を代わると申し出ていたのだった。
この家の者が用意してくれた温かい寝床には多少未練はあるが、不寝番を代わった仲間がそこで充分に睡眠を取ってくれればそれでいいと自分の胸に言い聞かせる。
「……寒ィな」
ふと、銀時がつぶやいた。
「ああ」
桂はうなづく。
秋の夜は水の中のような冷たさだ。
「なァ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「この村の者に食糧をわけることにしたのは、宿を借りたかったからだけじゃねーだろ」