天の花 群星
すると、銀時は少し眼を見張った。続けてその眼になにか決意したような強さが宿る。しかし、次の瞬間には、表情がふとやわらかくなり、笑った。
桂は問う。
「これで信じるか」
「……まァ、テメーとは長いつき合いだからなァ、仕方ねーから信じてやるよ」
少し間を置いてから銀時はえらそうに言い、そして、眼を逸らした。
それからまた双方ともになにも話さなくなった。
けれどもそれで居心地の悪い想いをすることもなく、桂は南の空で強く輝く星を眺める。
ふいに沈黙を破ったのは銀時だった。
「なァ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「おまえ……」
しかし銀時はなにかを言いかけて、やめた。
桂は銀時のほうを見た。
眼が合う。
「なんだ」
途切れた台詞の先が気になってうながしてみる。
だが、銀時は口を閉ざしたままでいた。
「なんだ、なにか言いたいことがあるなら言え」
もう一度、今度はさっきよりもやや強い調子でうながしてみる。
すると。
「なんでもねーよ」
そうぼそっと言って、銀時は顔を背けた。
桂は眼を丸くする。
わけがわからない。
もしかして今回の戦についてまだ不安に思っているのだろうか。
「……つーか、寒いっつーんだよ」
桂がじっと見ていると、いきなり銀時はそんな不満を口にして立ちあがった。
「寒くてやってらんねェ。下に行って、酒、取ってくる」
「馬鹿者。不寝番が酔っぱらってどうする」
話を無理矢理断ち切られてしまったが、こういう場合は深く追求しないほうがいいだろうと判断し、桂は話を蒸し返さないことにした。
「酒ではなく手あぶりでも借りてこい」
「ハイハイ」
「ハイは一回だ!」
「うるせェなァ、テメーはよォ」
銀時は文句を言いながら桂に背を向けた。
その去っていく後ろ姿をしばらく見送ったあと、桂は顔を正面にもどす。
遠くを見る。天人軍が駐留している方角だ。特になにも異変のないことを確認する。
空では北落師門が漆黒の闇を背景に煌めいていた。
翌日、朝餉が終わるとすぐに、高杉は自分の滞在している豪農の家に村の要となる人々を集めた。そして、天人軍との戦に関わる、ある依頼をした。
村の要となる人々はその依頼を引き受けた。攘夷軍に手を貸すことにしたのは、それが引き受けやすい依頼であったことや、困窮しているときに助けられたからその恩義を返すという気持ちもあったのだろうが、どうやら天人軍に対する激しい怒りのせいでもあったようだ。天人軍はこの村の食糧や金目の物を掠奪していった際、邪魔な者がいれば容赦なく暴力をふるったらしい。そのせいで命を落とした村人も何人かいたそうである。
高杉から具体的な指示を受けたあと、村の要となる人々は村人を集め、彼らに高杉から依頼されたことを説明し、それに沿って動くよう指示した。
その一方で高杉は手紙を書き、このまえ斥候を務めた者にそれを預けて城へと向かわせた。
そんなふうに次の戦に向けて準備は着々と進められた。
城の近くに駐留している天人軍は攘夷軍が近隣の村まで来ていることに気づいていないのか、気づいていてもたいしたことはないと侮っているのか、動かなかった。
やがて日は過ぎ、準備はすべて整った。そして、翌日が戦の日と決まった。
その決戦の日の朝。
桂は自分の部屋から出たところで、銀時と出くわした。
銀時は桂の顔を見ると、ふわあとあくびした。
「……ねむ」
「貴様はいくら寝ても寝足りんようだな」
「ウルセー」
そう文句を言うと、銀時はまた大きくあくびをした。
戦の当日であるのに緊張感がまるでない。
それに今回のこの戦における作戦では銀時は重要な役割を与えられているというのに。