天の花 群星
「銀時」
「なに。朝っぱらから暗い顔して、辛気くせーなァ」
「俺もおまえと一緒に行ければいいのだが」
その重要な役割とは一番危険な役割でもある。だが、桂はそれとは異なる重要な役割を果たさなければならないので、銀時とは別行動になる。
「バカ言うんじゃねーよ」
銀時は鼻で笑った。
「テメーなんざついてこなくて充分だ」
からかうように軽く告げると、銀時は右腕をあげた。
「まァ、まかしときなって」
その手が、一瞬、桂の左肩をつかんだ。
桂は穏やかな声で言う。
「では、まかせた」
「おう」
そう応えた銀時の手はもう下ろされていた。
天人軍は籠城側からしばらく攻撃を仕掛けられることもなく、長く同じ場所に駐留し続けているうちに、全体的に気がゆるんでいた。
食糧の補給路を断っているので、このままこちらから攻撃を仕掛けなくても、籠城側は自滅するのではと楽観視していた。
籠城側を助けるために攘夷軍が近隣の村までやってきているのは知っていたが、自分たちのほうが兵の数では勝る。籠城側と合流させなければ問題ないと見ていた。
しかし、今日の昼過ぎ、籠城側に動きがあった。
「オイ、あれはなんだ」
城を見張っていた天人兵が声をあげた。
久しぶりに城から兵が馬に乗って出てきたのだった。
「敵が動いたぞ!」
たちまち天人軍は緊張した。
だが、城から出てきたのはたったの数騎だった。
天人軍の将はその報告を受け、戸惑った。それでも放っておくわけにはいかず、兵を動かした。しかし、大軍のごく一部である。
もしかしたらなにか罠が仕掛けられているかも知れないと警戒しつつ天人兵は城側の兵に向かっていった。
途端に、その数騎は慌てふためき、城へと逃げもどっていった。
「なんだアリャ」
そのみっともない様子に天人軍は呆れた。
「なにがしたかったんだ、アイツら」
「わからん。だが、籠城してるヤツらはもしかしたら腰抜けばっかりなんじゃねーか」
「ああ、違いない」
「じゃあ、楽勝だな」
天人軍は兵を退いた。
しばらくして、ひとり離れたところにいた天人兵が大声で呼びかけてきた。
「おーい、なんかここに食糧が隠してあるぞ!」
だから、近くにいた他の天人兵たちはその声のしたほうに駆けつけた。
確かにそこに食糧が置かれていた。
「だれが、なんのためにこんなところに……?」
天人兵は首を傾げた。
ふと、その場にいた天人兵のひとりが思いついたように言った。
「そういや、さっき城から出てきたヤツら、こっちのほうに向かってなかったか」
「あ、そういやそうだな」
「でも、それがどうした」
「いや、だからさ、アイツらこの食糧を取りにきたんじゃないのか」
「食糧を取りにきた……?」
「だからさァ、近くの村に攘夷軍が来てるだろ。アイツらがこれをここに置いて、それを籠城してるヤツらが取りにきたんじゃないのか。でも、俺たちがすぐに攻撃してきたから、諦めて逃げるしかなかったんだろうよ」
「ああ、そうか。きっとそうだ」
「でも、あんな少人数で出てきたってことは、籠城してるヤツらそうとう困ってるんじゃないの」
「ああ、そうだ、きっとそうだ。おまえ、いい勘してるよな」
天人兵たちは攘夷軍と籠城側の計画に気づいたことに満足した。
だが、この食糧を発見した兵がいつの間にか姿を消したことには気づかなかった。