天の花 群星
降りそそがれる石や矢の数からして山の上にいる攘夷兵の数も多いはずで、そして背後にいる攘夷兵の数も多い。
聞いていたのとは違う。
だが、挟み撃ちの状況にあるのは認めざるをえなかった。
驚愕する天人兵の眼のまえで、攘夷軍の総大将らしき者が抜刀し、その切っ先で天人軍を指さした。
そして。
「行けェェッ」
そう怒鳴った。
おおおおお、とそれに応える大音声があたりに響き渡った。
彼らは天人軍のほうへまっしぐらに駆けてきた。
その先頭に攘夷軍の総大将がいた。長く艶やかな黒髪をたなびかせていた。
天人兵たちは浮き足だった。
やがて。
「退けェ、退けェ!」
天人軍の将は退却を命じた。
だが、それよりまえに逃げ出していた天人兵も多くいた。
逃げる天人兵を攘夷兵は追ってきた。山に潜んでいた攘夷兵も駆けおりてきた。
攘夷軍のなかに特に強い者が四人いた。その四人は獅子奮迅の活躍をし、天人兵は彼らを恐れて懸命に逃げた。
その四人のなかでも、攘夷軍の総大将と、そして天人軍の宴に突っ込んできた十数騎の先頭を走っていた銀髪の兵が、より強かった。しかも、そのふたりは合流した途端にさらに強くなった。
朝陽がのぼる頃には、天人軍は城からはるか遠く離れたところに逃げ去っていた。
夜空に鮮やかな光が花開く。
続いて、ドンと大地を揺らすような轟音がした。
「見事じゃ〜、見事な花火じゃ〜」
坂本が空を見あげて褒め称えた。すっかりご機嫌な様子である。もともと陽気な性格ではあるが、酒に酔っているせいもあるだろう。
銀時たちの滞在している豪農の家では、天人軍に勝利したことを祝って宴が催されていた。
天人軍が去ったあと、そこには村から強奪した食糧が多少減っているとはいえ残っていた。村人たちは自分たちの食糧を取りもどせて大喜びした。
また、この村ではなく、どこかよそで奪ってきたらしい花火もあった。花火をなにかに使おうと思ったのだろうか。それとも、売って金に換えるつもりだったのだろうか。その花火が、今、夜空へと打ちあげられている。
銀時と桂と高杉と坂本は、花火の打ちあげられる音につられるように豪農の家から出て、なんとなく歩いているうちに、山のほうにある小さな神社にたどり着いた。
打ちあげられる花火が綺麗に見える。
「うるせェなァ、テメーは騒ぎすぎなんだよ、いつも」
高杉が坂本をにらみつけた。
しかし、坂本はまったく気にせず、それどころか浮かれきった様子で高杉の肩を叩く。
「見事じゃ〜、見事じゃ〜、おんしの策も見事じゃった〜」
そう今度は高杉の策を褒め称えた。
今回の戦で、高杉はまず村人にある依頼をした。その依頼とは、天人軍の駐留している平野の近くにある山へ天人軍に気づかれないように行き、仕掛けを作ることだった。
そして、村人が攘夷志士とともに仕掛けを作る一方で、高杉は城と連絡を取った。
戦の日の早朝、天人軍が駐留している近くまで食糧を運んで隠しておいた。
昼過ぎ、事前に高杉が指示を出しておいたとおりに、城から数騎が食糧の隠してある方角に走った。天人軍が攻めてくるとすぐに城へと逃げもどったのも計画どおりのことである。
そのあと、天人兵の格好をした攘夷兵が食糧を見つけたと天人軍に知らせた。
夜、期待していたとおり、天人軍は宴を開いた。天人軍に見つけさせた食糧のなかに酒がたくさんあったのは、それを狙ってのことだった。もちろんその酒は酔いがまわりやすいものばかりにした。
宴が最高潮に達するのを待ち、銀時を先頭にして攘夷兵が馬に乗って天人軍に突っ込んだ。大軍にたった十数騎で向かっていくのだから、今回これが一番危険な役割だった。
銀時は仲間とともに天人兵を蹴散らすようにして進み、なおかつ天人兵を引きつけて、山へと駆けた。
その山に仕掛けがあった。山には村人の一部が先に来て、待機していた。そして、天人兵が銀時たちを追って山をのぼってくると、村人たちはその仕掛けを使い、石を大量に落とした。このときのために、村人と攘夷志士は天人軍に気づかれないよう石を山に集めて、縄や木で仕掛けを作ってそこに石を溜めておいたのだった。仕掛けを外すと、一気に、大量の石が天人兵に襲いかかった。
村人たちが石で攻撃している一方で、銀時たち攘夷兵は天人兵に向かって矢を射た。
銀時たちを追って山まで来た天人兵はそこに攘夷兵が多くひそんでいると思いこみ、引き返して援軍を求めた。
そして、天人軍が山へと向かうと、その背後から桂率いる攘夷軍が襲いかかった。攘夷軍には城の兵も合流していた上、大軍に見せるためだけに村人も兵のような格好をして混じっていた。
天人軍は慌てふためき、実際は自分たちのほうが数では完全に勝っていることにはまったく気づかず、逃げた。
すべて高杉の目論見通りに事は運んだ。
攘夷軍の圧勝だった。