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酸素に喘ぐ

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何処か遠くでまた明日を交わす人達の声が聴こえる気がする。今日の委員会会議もずるりと長引いて、先に園原さんに帰ってもらい一人で昇降口に居た。上履きを脱ぎ靴を取り出そうとして、その靴の隣に白く飾り気のない封筒が肩身も狭そうに縮こまってあった。
取り敢えず上履きを下駄箱に収納して靴を爪先をとんとんさせて履く。手に取った厚みのない封筒を一瞥する。差出人の名は記されていないのに、己の名がそれなりに気を遣った筆跡で白の中に埋もれ掛けている。差し当たって心当たりはないけれど、物の試しで開封する。
折り目も真心の籠もった手紙には拝啓も、やはり思った通りに差出人の名も、それどころか中身が入っていなかった。文字がかくれんぼをしているかと思うくらい外観とそっくりさんな、要するに白紙の手紙であった。宛名は己であるのだから、無関係であることもない。だが流石に物言わぬ手紙であるとどう対処してよいのか。
ブツ、という導入の音に始まるノイズ混じりの下校を促す放送が、己の肩と校舎を微かに震わせて響いた。鳴り止むのを大人しく聞き届けてから手紙を畳んで封筒に仕舞い、鞄の中の教科書と教科書に間へと角が折れたりしないように挟み込んだ。

体温が移るのではないかと思える程暫く持ち歩いていたのだが、もしかしたら書いてあったかもしれない文字は、結局帰っては来なかった。
作品名:酸素に喘ぐ 作家名:じゃく