酸素に喘ぐ
人の気配が少しだけ収まった、ある程度時間の経過した放課後の廊下をひっそりと回遊していた。まだ完全下校を報せる校内放送には少々早くて、帰宅部ならとっくに帰路でいる頃でいて廊下の人口密度はそんなに詰まっていない。
顔を合わせたことがない故に、知り合いと呼べるか否かを迷う、知り合いらと鉢合わせしないようにと気を付けながらも空の教室に入り、普段使用しているであろうひとの机の表面を指先でもってそっと撫でる。
発生した時から持ち得ていた情報のみでは感じなかった、疑いを許さない立体感が伴う感触に戸惑う。全てが初めてなのに知っている。知っている筈なのに心地は揺らぐ。残り香は消しゴムのカスのように残留してはいなかったけれども、先ごろのものに加えまた新しい己だけのオリジナルを得たという、小さな感覚が胃の中でカラコロと転がった。
施錠されている窓の鍵を外して開けて、夕焼けに空は塗られているのに色が付着していない空気を頬に当てる。右腕と左腕の肘を窓枠に置き、左手の平で顎から頬を支える。真昼は目立たなかった月に急かされてるみたいに、雲が駆け足をして流れていくように見える。壁に掛けられている時計の秒針が素早く数字から数字へ位置をずらしているように感じる。
チャイムが鳴り響き終えたと思えば、昇降口から下校していく小さな頭が見下ろせた。それを確認出来たので、窓を閉め鍵を施錠し直そうと伸ばした腕が通り抜けてしまった。これにて本日のタイムアップらしいので、ちょっぴり気まずくなりながらも風に遊ばれるカーテンをそのままに教室を抜け出した。
ひどく不安定である俺は、どうしても物質的影響を長時間保てやしない。よって入れ替わることなど現状からして不可能である。
俺からまた俺が発生するかもしれない、揺らぐ俺は幾つもの感情が混在する。瞬いたのちには反転した行動をしていて、呼吸一回だけで行動の軌道を改めていて。
確かなことは不明瞭というそれがただ一つのみ。そうであるから俺という発生したもしもは望み、思索或いは検討をし、実行するなら今のきり。絞り切れるかは別として。
反省する機会を与えられるかどうかの確証はありはしないけれど。これもまた定められていない不確定でしかない、閉じていない可能性の内の一つなのだから。
最期かもしれないひとときくらい、足掻かせていて。
顔を合わせたことがない故に、知り合いと呼べるか否かを迷う、知り合いらと鉢合わせしないようにと気を付けながらも空の教室に入り、普段使用しているであろうひとの机の表面を指先でもってそっと撫でる。
発生した時から持ち得ていた情報のみでは感じなかった、疑いを許さない立体感が伴う感触に戸惑う。全てが初めてなのに知っている。知っている筈なのに心地は揺らぐ。残り香は消しゴムのカスのように残留してはいなかったけれども、先ごろのものに加えまた新しい己だけのオリジナルを得たという、小さな感覚が胃の中でカラコロと転がった。
施錠されている窓の鍵を外して開けて、夕焼けに空は塗られているのに色が付着していない空気を頬に当てる。右腕と左腕の肘を窓枠に置き、左手の平で顎から頬を支える。真昼は目立たなかった月に急かされてるみたいに、雲が駆け足をして流れていくように見える。壁に掛けられている時計の秒針が素早く数字から数字へ位置をずらしているように感じる。
チャイムが鳴り響き終えたと思えば、昇降口から下校していく小さな頭が見下ろせた。それを確認出来たので、窓を閉め鍵を施錠し直そうと伸ばした腕が通り抜けてしまった。これにて本日のタイムアップらしいので、ちょっぴり気まずくなりながらも風に遊ばれるカーテンをそのままに教室を抜け出した。
ひどく不安定である俺は、どうしても物質的影響を長時間保てやしない。よって入れ替わることなど現状からして不可能である。
俺からまた俺が発生するかもしれない、揺らぐ俺は幾つもの感情が混在する。瞬いたのちには反転した行動をしていて、呼吸一回だけで行動の軌道を改めていて。
確かなことは不明瞭というそれがただ一つのみ。そうであるから俺という発生したもしもは望み、思索或いは検討をし、実行するなら今のきり。絞り切れるかは別として。
反省する機会を与えられるかどうかの確証はありはしないけれど。これもまた定められていない不確定でしかない、閉じていない可能性の内の一つなのだから。
最期かもしれないひとときくらい、足掻かせていて。