東方無風伝 4
縁側に腰掛け、風間とリリカの弾幕ごっこを観戦している者が二人。
一人は石竹色の亡霊。
一人は黒色の騒霊。
二人共言葉を交わす訳でもなく、静かにそれを眺めていた。
「只今、姉さん」
「何処行ってたの、メルラン」
其処に一人の乱入者。白色の騒霊であり、黒色の騒霊の妹だ。
「御手水(おちょうず)よ。さっきの馬鹿みたいな轟音はリリカのでしょ」
「うん。風間さんとリリカが弾幕ごっこを始めたの」
白色の騒霊はちらりと弾幕ごっこをしている二人に目を向け、黒色の騒霊に問う。
「戦況はいかほど?」
「六対四ってところ」
「やっぱりリリカ一人じゃ厳しいかー。まぁ、所詮リリカだもんね」
「……逆。リリカが優勢」
「さっすがリリカ。私達の妹なだけあるね」
「……」
一転するメルランの態度に呆れたのか、業とらしく溜め息を吐くルナサ。
それでも、二人にとっては日常的なやり取りなのだろう。ルナサの顔には笑みがある。
「十対零よ」
「お?」
つい先程まで、無言を決め込んでいた西行寺が言った。
「どちらが勝つと?」
「貴女達の可愛い妹が勝つわ。風間が勝つなんてことは、絶対に無い」
「そう言い切る根拠は?」 「風間は弾幕ごっこを知らない。それが根拠よ」
「知らない……?」
弾幕ごっこを知らないとはどういうことだろうか。弾幕ごっこはこの幻想郷では最もポピュラーな遊び。
幻想郷に住まう者で、弾幕ごっこを知らないなんてことは無い。それほどまでに浸透している筈。
あくまでも、幻想郷に住まう者なら。
「彼は、外来人なの?」
「えぇ、その通りよ」
「んー、でも外来人は時折凄く弾幕ごっこが強い人いるよ。風間は違うの?」
「彼は、弾幕を放てない。だから風間はあの娘の弾幕を避けきったら勝ちと言うルールを決めた。それが命取りなのよ」
「解った。つまり、風間さんは弾幕ごっこのルールを知らない」
「その通りよ」
「どういうことよ、姉さん」
「弾幕を避けきったらと言うルールは、スペルカードと言う区切りが無い。つまり、リリカは無尽蔵に弾幕を出せる」
「あ、成る程。リリカは幾らでも弾幕を放てる。その一方で、風間は避け続けないといけない。だけど、永久的に弾幕は避けれない」
この弾幕ごっこに風間の勝利は有り得ない。無限に撃たれる弾幕を永遠に避け続けるなんて誰が出来ようか。
これは、始めから勝敗が決まっていたのだ。



