東方無風伝 4
とん、と後ろに跳んで距離を取る。
それと同時に周囲を飛び交っていた弾幕は消滅する。
「おや、もう撃ち止めかい?」
「まだまだよ」
少し跳び回りすぎたせいで乱れた呼吸を整えながらリリカに言う。
リリカもまだ余裕そうだが、少しばかり息が荒いのが見て窺える。よく見れば、汗もかいているようだ。
リリカは懐(ふところ)を探り、何かを取り出す。
「チッ」
それを見て舌打ちを一つ。
スペルカードだ。あの魔理沙達が使っていた各々の必殺技。
リリカめ、本気で俺を潰す気だな。
「冥鍵『ファツィオーリ冥奏』」
リリカが大声でそう宣言すれば、カードは光となり形を失くし、力へ変わる。
生まれた弾幕は、まるで演奏そのものを現しているようだった。
赤と青の二種類の弾幕が、複雑に絡み合い、解れ合い、拭い合い。リリカの周りを複雑に回り、やがてもう気は済んだと言わんばかりに此方へと向かってくる。
赤と青が、少しだけタイミングをずらして左から、そして右からと飛んでくる。
リリカの周りで円を描くように飛んでいた為、曲線を描いて飛んでくるだろうと思っていたが、それは直線で飛んできた
先ず左から来る赤い弾を抜ければ、その直ぐ後に右から青い弾幕が。
それは先程の赤い弾幕を抜けたのと同じように弾の隙間を抜ける。
次に、また同じ様に赤い弾。
「なんだ、これだけか?」
スペルカードと言っても大したことないな。そう思って赤い弾を避けた時、それがどれだけ愚かな考えだったかを思い知らされた。
「おわっとぉい!」
直ぐ目の前に青い弾幕が。それを反射的に横に跳んで避けようとしたら、赤い弾幕が進路を塞ぐ。
それは一瞬の判断で。地面を強く蹴り、兎に角逃げた。赤と青が左右から襲うならば、そのどちらかに動けば片方の弾幕を避けるだけで済む。
ふぅ、と安堵の溜め息を吐いて弾幕をやり過ごしたが、顔を上げればリリカは第二射目を放とうと、弾幕が彼女の周りを渦巻いていた。
「降参する?」
「誰がするか」
その返事は彼女の予想通りだったのだろう。
寸分の開きもなく、新たな弾幕が放たれた。



