東方無風伝 4
弾幕は続く。放たれた赤と青の弾を避ければ、その度にぎりぎりのところで避ける。そしてまた弾幕は放たれ、当たる寸前で避ける。
それは彼の体力と精神力を削り取っていった。
「はぁ……」と深い溜め息を一つ吐く。果たしてそれは溜め息と言えただろうか。疲労しきった肺に入れた酸素を、二酸化炭素に還元して吐き出す。その一連の循環は粗雑で荒いものへと変貌する。
彼はもう、疲れきっているのだ。
気のせいか、弾幕が発射される毎に弾数が多くなってきている気がする。
いや、それは気のせいなんかではない。
初めこそは、赤と青の弾は一つの円だった。だが、今やそれは三重の円を作って交互に襲い掛かってきている。
赤い弾の隙間を縫えたと思えば、直ぐ目の前に青と赤の弾幕が道を塞ぐ。それをまた危機一髪のところで避ける。
そんなことを繰り返しているうちに、リリカは気付いた。既に風間が満身創痍だと言うことに。
「よおし」
今こそが好機と見たか、リリカは嘗(かつ)てない程に弾幕を展開させる。
それを見た風間は焦った。八雲紫の強襲の時以上の弾の数に。彼が今まで見た中で最高数の弾だった。
弾は相も変わらない陣形を保ち続け、複雑に入り混じれ、絡み合い、そして標的を定める。
「いやこれ反則」
口調は何時も通りに冷静なものだが、その内心は焦燥感でいっぱいだった。
先程までの弾幕を避けるので精一杯だったのだ。これはきっと避けられない。
それでも、負けたくなかった。
「うおおおお!」
彼は自ら弾幕の中に突撃した。
それはまるで、風車に挑むドン・キホーテに。
彼は迫り来る弾幕を避けようとする。右に、左に。絶え間なく襲う大量の弾に、彼は一瞬の反射と判断に身を委(ゆだ)ねるしかなかった。
彼は半ば朦朧と弾を避け続けた。
彼の意識がもう少しだけでもしっかりとしていれば、きっとこんなことは起きなかっただろう。
「うぁっだ!」
彼は自分の足を縺(もつ)れさせた。バランスは一瞬で取れなくなり、地面に倒れ伏す。
まずい! そう思っても、起きてしまったことはどうにも出来ず。
リリカは新たな弾幕を展開させていた。



