東方無風伝 4
それに意思なんて無く、ただ自身を生み出した主(あるじ)に従い飛ぶだけ。
今この弾幕ごっこに終止符が打たれようとしていた。
赤と青の弾幕は風間を目掛けて飛んでくる。
そして、風間は大量の弾幕に埋もれ、彼は避ける事叶わず、弾幕が爆(は)ぜる。
そうなるはずだった。
彼はその圧倒的なまでの弾幕を前に、不敵な笑みを浮かべていた。相も変わらず転んだ姿勢のままで、彼には弾幕を避けることは出来ない。それでも、彼には余裕があった。
「悪いが、ここからは反撃させてもらうぞ」
彼は呟いた。
途端、宙を舞う桜の花弁が、まるで時間を止めたかのように落ちるのを止めた。
「なに!?」
突然起きたその現象に、リリカは驚きを隠せなかった。
驚愕と動揺が彼女の心を大きく揺さぶった。
桜の花弁は、風間の意思に従うように飛び交う。
「枯れ木に花を、咲かしょうぞー」
花弁は、まるで弾幕のようにリリカに向かい飛ぶ。
リリカが放つ弾幕に花弁はぶつかり、爆ぜる。それにより、リリカの弾幕は一瞬にして掻き消された。
彼の狙いはこれだった。花弁を操り、リリカの弾幕を消す。これで風間が被弾することは無くなったのだ。
「くそ!」
悪態を吐くリリカ。まさか外来人だとは言え、まさか既に能力に目覚めているとは、彼女は予想なんてしていなかった。
風間の能力の発現に驚いているのは、何もリリカだけではない。彼女の二人の姉も、そして西行寺幽々子とて驚いていた。
特に、一番驚いているのは西行幽々子だ。風間は、確かにリリカと弾幕ごっこをする前までは無能力者だった。だが、リリカとの弾幕ごっこを経て、彼は覚醒した。彼女はそう考えた。
能力に覚醒するには、主に三つの種類に分けられる。
一つは、修業を積むこと。だがそれは元から備わる自身の力を高めることにしか過ぎない。
一つは、環境に適応すること。この幻想郷と言う地は、妖怪と対等に戦う力が必要な世界だ。それ故に、本能的に能力に目覚めることがある。幻想郷に来て直ぐに能力に目覚める外来人なんかは、これに該当する。
一つは、窮地に立たされること。自身の身を守るが為に、力を必要とし、それが発現する。風間は典型的なこのタイプの覚醒だった。
そう、これはイレギュラーなんかではなく、一つの可能性だったのだ。



