東方無風伝 4
「一つ、聞いても良いかしら?」
リリカとの弾幕ごっこは終り、身体を休めようと思えば西行寺はそう声を掛けてきた。
縁側に腰掛け、桜の庭で演奏の練習をしているプリズムリバー三姉妹を眺めながら、適当に返事をする。
「ああ。俺に答えられることならば」
「何故あの子に止めを刺さなかったの?」
その言葉に、風間はゆっくりと視線を西行寺に合わせる。
少し、戸惑っているように。
「能力開花。それが差し示すのは力の覚醒。貴方は、やろうと思えば弾幕を出し、あの子に反撃することが出来たわ。それを、どうして?」
「……ふむ」
彼は内心舌打ちを吐いていた。それは、彼女の質問が面倒にしかなり得ないからだ。
「簡単なこと。弾幕は出せないからだ」
「どうして? 貴方は自身が持つ力に覚醒したはずよ。弾幕だって出せるはずよ」
「力が使えるようになったからと言って、直ぐに自由自在に使えるものではない。知識と本番は違うのだよ」
「力は違うわ。それは元々自分のモノよ。手足を動かすも同然に使えるはずよ」
「……」
西行寺と目が合う。その眼光は鋭く光り、彼の目は半ば睨みつけるようになっていた。
「ふむ、ではこう言おうか」
「なんと言ってくれるのかしら?」
「俺は、能力は使えるが、力は使えん」
「それはおかしいわね」
「何故そう言いきれる、西行寺」
「力と言うものは、一種の宝箱よ。人の体内に秘められた、鍵の付いた宝箱」
「宝が力と?」
「そうよ。能力って言うのはね、力の集合体に過ぎないの。宝箱の中の、一番豪華なお宝。それが能力よ」
「はぁ……」
頭を掻きながら溜め息を一つ吐く。その溜め息には諦めが含まれている。
全く西行寺め。疑り深いのも程ほどにしてくれよ。
「西行寺、そう言われてもな、それが事実であり、現実だ」
そう言って彼は手の平を上に向ける。其処に小さな竜巻が生まれる。
彼がその中に落ち葉を落とせば、葉は面白いように高速で回り出す。
「貴方はまた隠し事をするのかしら?」
「隠し事も何も、何故そうなるのか解らないんだ。隠し事でもなんでもないさ」
彼は言った。自分でも、何故力は使えず、それでも能力は使えるかは解らないと。
彼のその言葉は、嘘だった。
彼には解っていた。何故能力が使えるか、力は使えないか、自身の本当の力について。



