東方無風伝 4
「ただ今戻りましたー」
「おや」
白玉楼に響く妖夢の声。どうやら人里の買い物から帰ってきたようだ。
「お帰り、妖夢」
「はい、ただ今戻りました」
妖夢を出迎えて挨拶を交わす。
膨らんだ手提げ袋を両手でしっかり支える妖夢。
「どれ、俺が台所まで持っていこう」
妖夢から取り上げるような形で、重い手提げ袋を持つ。
ずっしりとした感触。やっぱり、とても重い。だがそれは格好つけた手前、気合いで片手で持つ。
「思ってたより元気そうね、風間」
「お?」
振り返り見れば、妖夢の背後から二人の少女が現れる。
一人は、紅白の巫女服に身を包んだ少女。
一人は、黒白の魔法遣いの服に身を包んだ少女。
「久方振りだな、霊夢」
「久し振りね」
「久し振りだぜ」
「魔理沙とは二日前に会ったばかりだな」
魔理沙は、あの薬の一件からもちょくちょくこの白玉楼に遊び来ていた。その度に修業の邪魔をしてきて迷惑だったが……。
霊夢と会うのは実に二、三週間振りだったか。あの神社で会った時以来だから、大体それぐらいか。
「今は此処に居候していたの」
「ああ。剣の修業の為にな」
「そう」
霊夢は興味が無いようで、それでも彼女の瞳は俺を睨みつけるように鋭かった。
「それなら、あんたに貸した金、必要無いわよね。今すぐ返しなさい」
あ、それが目的でしたか。等とは口に到底出せない。
「いや霊夢。俺は何(いず)れこの白玉楼を出るだろう。そうなれば、この金は必要になる」
「それはどうせ先の話でしょ。私の明日と、風間の何時か。どちらが大切かは明白でしょ」
胸倉を掴み、半ば、いや八割方恐喝混じりで言う霊夢。
「助けて妖夢―、魔理沙―。渇上げされてるー」
そう助けを請うが、妖夢はほんわかと微笑んで見ているだけ。魔理沙は何時ものにやついた笑顔を浮かべて見ているだけ。
魔理沙は何時もの様子だからいいとして、妖夢まで!
「かーねー」
「た、助けてくれ!」
次第に霊夢は亡霊のような虚ろな目つきとなり、まるで『金』と言う言葉しか知らないのようにその言葉を繰り返す。
「妖夢! このままだと食材が!」
俺が持つ手提げ袋。これが落ちれば、少なからず食材は『駄目』になるものがあるだろう。
その言葉にはっとしたように、妖夢は急いで霊夢の解放に走った。
因みに、魔理沙はその間もにやついて見ていただけだった。



