東方無風伝 4
二人掛りだったからか、遅くなると思っていた料理も無事出来上がり、それを広間へと運ぶ。
襖(ふすま)を外し、中央に長テーブルを設置したとても広い部屋。其処に妖夢と共に運ぶが、たった二人の作業だ。どうにも時間が掛ってしまう。
客人八人に、俺と妖夢と西行寺の計十一人分の料理を運ぶのだが、誰も手伝おうとはしない。
寧ろ、邪魔をする。
「魔理沙、摘み食いは感心しないな」
「風間、料理は食べられる為に、作られるものなんだぜ」
「その前に、綺麗に盛り付けることで、ひとつの芸術として完成するんだよ」
「別に見た目なんて良いじゃない、美味しく食べれば」
「……霊夢が言うと、なんか説得力あるな」
「どういう意味よそれ」
「いや別に」
本当に食べ物が無い時は、雑草でも齧っていそうな想像が頭を過(よ)ぎったのだが、勿論、本人を前にしては言わない。
「幽々子様も、リリカさんも、摘み食いは駄目ですよ」
「ぬ」
「目敏(めざと)いわね、妖夢」
「お前ら……」
霊夢と魔理沙の相手をしていた俺の目を盗んで、西行寺とリリカが摘み食いをしていたようだ。
妖夢が窘めるものの、聞く耳持たずと言った様子でまた摘む。
「別に良いのよ、ただ美味い物食べて、美味い酒呑んで、楽し
く騒ぐ。それが宴会よ」
「その美味い飯を、自分達で減らしてどうすると言うんだ」
「宴会は、もう始まっているのよ」
そう言いながらも、箸を伸ばす西行寺。
堂々としたその態度には、もう呆れるばかりである。
「ほら、お客様達に料理を振舞いなさい」
西行寺が箸で示さす客人達。
霊夢、魔理沙、プリズムリバー三姉妹の計五人の客人達は、既に好き勝手に料理に手を付けていた。
……五人?
「西行寺、客人は八人ではなかったか?」
「ええそうよ」
「五人しかいないが」
「遅れているだけでしょ」
ああ、そうか。極単純に遅れているだけか。
そう思って、さて給仕を続けようとした時。
「ごめんくださーい」
「噂をすれば、ね」
「噂をすれば、だな」
白玉楼に、新たな客人の声が響いた。



