東方無風伝 4
「いらっしゃい」
「西行寺殿、本日は御招き頂き感謝します」
妙に礼儀正しく現れたのは、九本の狐の尻尾を生やした女性と、その女性と手を繋ぐ二本の猫の尻尾を生やした少女。どちらも妖獣か。
前者は恐らく九尾の狐。後者は恐らく猫又だろう。
「ほら、橙もお礼を」
「幽々子様、今日は呼んで頂き、有難う御座います」
「良いのよ、橙」
「……まるで親子みたいだな」
ぽつりと呟いた狐と猫の関係の感想。
その呟きが狐の耳に入ったか、狐と目が合う。
「そちらの方は?」
「ああ、そう言えば貴方達は初めてだったかしら」
「初めまして。風間と言う」
「初めまして、私は八雲藍と言う。気軽に藍と呼んでくれ」
……八雲? あの八雲紫と同姓だと?
俺が八雲紫のことを気にし過ぎているのか、はたまた偶然か。ここ最近、確かに八雲紫のことを考え過ぎている節はある。だが、こんな偶然はあるだろうか。この狐も、八雲紫と縁のある妖怪。そう考えた方がよいだろう。
警戒はしておいて損は無い。
「さぁ、橙も挨拶を」
「えっと、初めまして、藍様の式神の橙です」
藍に促されて藍の式神だと自己紹介をする橙。
式神と言えば、確か自分の手下に一時的に力を付与することだ。
藍の式神と言うことは、橙は藍から力を与えられている妖怪ということになる。
「式神を使役すると言うことは、藍はとても賢い妖怪なのか」
式神の使役は、とても複雑で難しい。式神とは、数式そのものと言っても過言ではない。複雑な方程式を何千通りと、そしてそれらの計算式を完全に理解する頭脳が無ければ成り立たない。
俺でも式神の使役は出来ないだろう。頭脳はあるが、力が足りていない。
昔は人間が式神と言って獣を操る事があったが、あんなもの俺に言わせれば、ただ格好付けて式神と呼んだだけの遣い魔だ。
正直な話、人間では式神の使役は不可能と言っても良いくらいだ。妖怪でも、よほど力が有り、そして賢くなければ出来ない。
橙の存在は、藍の強大な力を誇示しているのだ。



