東方無風伝 4
「いや、私なんてまだまださ」
「謙遜することではないだろう。式神の使役は誇ってもよいことだ」
「私ではまだ、紫様の足元にも及ばないさ」
……そうですか、そうでしたか、そうなんですね。
「……紫様、とは?」
「私の主人だよ。こう見えて、私も式神なんだ」
な、なんだってー! 今起きたことをありのままに話すぜ。藍が式神だと思ったら、八雲紫が主人だった。とふざけるのも大概にしよう。
やはり、藍は八雲紫と繋がりがあったのか。それも、主従関係のようだ。
しかし、式神ねぇ。
「藍は自身、式神でありながら式神を使役するのか。凄いな」
「紫様の力の御蔭さ」
藍はそう言うが、少し照れているようだ。やはり自分の能力を褒められると嬉しいものか。
今は八雲紫のことを気にしても、どうにか出来るわけではない。藍が八雲紫と繋がりが有ると言うことには、こちらの情報をあまり漏らさぬように気を付けるしかない。藍は俺が八雲紫を畏れ、敵視していることを知らない。
「その、紫様ってのは」
「紫様は、とても強い力を持った妖怪さ。幻想郷をこよなく愛し、幻想郷を守護する御方さ。尤も、最近は寝てばかりで、仕事の殆どは私がやっているがね」
「ご愁傷様」
「どうも」
あいつの強力な能力の反動か、あいつは何時も寝てばかりだった。
――――境界を操る程度の能力。
物事の境目を操る能力だった。
闇と光、海と陸、空と大地、静と動、生と死。
この世の基準を根底から覆す、神にも等しい力。それが八雲紫だ。
「何をやっているの、風間」
「あ?」
西行寺が咎めるように俺を呼ぶ。
なんだと言うんだ突然。
「お客様がいらしたのよ。早く料理を持ってきなさい」
「……給仕係ではないのだがな」
「何か言ったかしら?」
「いや何も」
そう言えば随分と立ち話をしてしまった。妖夢一人に全てをやらせるわけにはいかない。
「私一人でも、大丈夫ですよ」
「大丈夫だからと言って、大変なのは間違いなかろう」
何時の間にか聞いていたのか、何時も通りに一人で頑張ろうとする妖夢を制し、配膳を再開する。



