東方無風伝 4
「御早う、妖夢」
「御早う御座います」
八雲紫の強襲に合った翌朝。
何時もならば妖夢との稽古が行われる時間帯だが、その妖夢の様子が何時もと少しばか
り違うのに気付く。
妖夢が庭掃除をしていない。
大抵は俺が声を掛けるまでは庭掃除をしている妖夢だが、今日は違った。箒を持っておらず、それならば稽古の為に竹刀を、と言う訳でも無い。
庭を見渡せば、木の葉も桜の花弁も落ちてないから、既に庭掃除は済ませたようだが。
「申し訳有りませんが、今日の稽古は……」
「ん、無いのか?」
「はい……」
歯切れの悪い妖夢の言葉の意図を汲み取った言葉に、肯定の返事。
その言葉通りに、妖夢は申し訳無さそうな言う顔をしている。
「少し、これから人里による用が有りまして」
「ああ、仕方が無いことだ。俺は適当に素振りでもしているさ」
「すみません」
「いやいいんだ。俺なんかの都合に合わせず、妖夢の都合に合わせた方が良かろう」
元より俺は部外者。妖夢が俺に気を遣う必要なんてまるでない。
それなのに気遣うと言うのはこの子の優しさなのかね。
「すみません。私はもう行くので」
「ああ、気を付けてな」
「はい」
そうして、彼女の愛用する二本の刀を手に、白玉楼を出ていく妖夢。
……人里か。
恐らくは、俺が幻想郷に来たばかりの時に見た集落のことだろう。あれが人里か。『人』の里と言うことは、其処に居るのはやはり人間だろうか。
はたまた、別の存在か。
竹刀を振り、考える。
人が居るのならば、俺は何時か訪れることになるだろう場所。
何時までもこの白玉楼に世話になってはいられないからな。
あくまでも、剣術の修行に来ている。修行を終えれば、此処を出ていく。此処を出ていったら、俺には行くあてが無い。人里とやらに行けば、何とかなるのか、ならないのか。
……知るか。その時の俺に任せるしか無い。今の俺が、そんなことを気にしても、今すぐに問題が解決するわけではない。
何れにせよ、早めに白玉楼は出た方が良いだろう。
長く居過ぎると、出られなくなってしまうから。



