東方無風伝 4
「ごめんくださーい」
突如として白玉楼に響く声。それは白玉楼の門前から届いて来た。
「客人のようだな」
「そうね」と二人で言葉を交わす。そのどちらもが、客人を迎えようとしない。
「行かなくてもよいのか?」
「良いのよ。家に招いた友人を、いちいち持て成したりするのかしら」
それもそうか、と西行寺に適当な返事を返す。その間も客人は変わらず呼び掛けを続ける。
「西行寺、ならばあれは西行寺の友人では無いのでは」
「それならそれで、妖夢が適当に追い返すわよ」
それもそうか、と適当に返事を返す。だが、頭の中には腑に落ちないところ浮かび上がった。
「西行寺、俺が何故稽古をしていないと思う」
「妖夢がいないからでしょ」
「ならば妖夢が追い返すのは出来ないのでは」
「……」
……相変わらずだな。だが、この間抜けなところが西行寺らしいところでもある。
「ダウト」
「何がかしら?」
「西行寺、解っていて言ったな」
「あら、一体何のことかしら?」
「お前、出るのが面倒なだけだろう」
だから、適当にあんな言い逃れをしていたのだ。
此処でのんびりと過ごしていた方が、そりゃ楽だからな。
まぁ、西行寺が放っておきたいと言うのなら、そうしよう。西行寺が出ないからと言って、代わりに俺が出るなんてことはしない。
何故なら、俺もまた、西行寺同様に面倒だったからだ。
「静かだなぁ」
「全くねぇ」
二人して桜の木の根元に腰掛け、ぼんやりと過ごす。
静止した世界に、唯一時間を刻み続けるように舞い散る桜。
蝶々は優雅に舞い踊り、鳥々は歌う。おぉ、正に天国にいる気分だ。実際此処はあの世だが。
生と死、静と動の調和が織りなす極楽、とでも表現すればよいのだろうか。この暖かな春の陽気に当てられれば、自然とそう考えてしまう。
「あー、やっぱりいた!」
静寂を突き破る大声が響く。
誰だこの調和を乱すのは、と視線を彷徨わせ、見つけたのは三人の少女。大声を上げたと思われるのは、その三人の中で一番小さな赤い少女だ。
この声は先程も聞いた覚えがある。白玉楼の門前で呼び掛けていたものと同一だ。
ならば、彼女等は西行寺の客人、か。



