東方無風伝 4
「うわ、姉さん以上に黒い!」
赤い少女は続けて言う。
恐らくは俺のことだろう。この場で黒いのは俺と、来客者の中の一人しかしない。
来客者は黒色の少女、白色の少女、そして元気な赤色の少女の三人だった。
「リリカ、出会い頭にそれは失礼だよ」
「出会い頭じゃなければ良いってことよね、それは」
黒い少女が赤い少女……面倒だ。黒いのは赤いのを窘(たしな)めると、白いのはそれの裏をかくようなことを言う。
「そう言う君は随分と赤いんだな」
赤いのは俺を見つめる。
「赤いの言うな!」
「ふぐぉ!」
怒声と共に腹を殴られる。
所詮少女のか細い腕。大した腕力もなく、痛くは無いが予想もしない突然の出来事に驚く。
「いやいや、君とて俺を黒い人と称したんだ。お相子だろう」
「そうだけど、なんかそう呼ばれたくなくて」
んな理不尽な。そう思っているのが顔に出てしまったのか、赤いのは不機嫌そうに顔を背ける。
黒いのは赤いのを窘めるが、赤いのは聞く耳持たず。やがて黒いのは諦めたようで溜め息を吐いた。
「妹が失礼しました」
「いや、君が謝る事ではないさ」
黒いのは妹に代わりに謝罪をしてくる。
成る程、姉妹関係だったのか、関心しつつ、その様子に頬が緩む。
別段俺は気分を害していない。何より、こうして戯れることが楽しかったりする。
「そうだ、自己紹介でもしようか。俺は風間と言う。よろしくな」
「ルナサ・プリズムリバー。本日は西行寺幽々子さんより、此方にお招き頂きました」
「メルラン・プリズムリバーよ。よろしくねー」
「リリカ・プリズムリバー」
姉に咎められたことを気にしているのか、一人だけ妙に不機嫌そうに挨拶をする赤いの、もといリリカ。
「挨拶くらいはきちんとやろうな、リリカ」
「痛い痛い痛い痛い! 止めて離してごめんなさい!」
ぐりぐりと、リリカのこめかみ付近を拳骨で捻じり上げる。
悲鳴を上げるリリカは、本当に痛いのだろう、涙目になって抵抗する。
「助けて姉さん!」
「自業自得」
「面倒」
「薄情な! それでもあんたらは私の姉か!」
「ぐりぐり」
「いーたーいー!」
……楽しくなってきた。と言うのも程ほどにリリカを解放する。
涙目で鋭い目つきで睨みつけてくるリリカ。
それでも、そうやって恨まれたりするのが、楽しかったり。
若いって良いなぁと、爺臭い感慨に耽(ふけ)ってみる。



