東方無風伝 4
「西行寺、この娘達が、例の客人共の?」
「ええそうよ。盛り上げ役」
「そうか。では後五人となるわけか」
「そうね。まぁ、多分一人は遅れてくるでしょうね」
「あー、時間を守らないような奴か?」
「そうね。私達みたいに長く生きれば、少しの時間なんてどうでもいいのよ」
「考える事は、一日をどう生きるか、だな。長く生きれば、やることなんてなんにもない。短い人生をせっせと生きる人間が羨ましいよ」
「全くよ。楽しいことですら、半ば楽しみ、半ばどうでもよくて。飽きるのよ。生きる事に」
「西行寺は、死んでいるだろう。どうだ、死人の人生は、生きてる時と何も変わらないのか?」
「貴方が死んで、確かめてみればいいじゃない」
「そいつは勘弁を」
あっはっはと西行寺と笑い合う。
悠久に近い時を生きた人外だからこそ、言えるその言葉に、傍から見ればこの俺とて人外に思えることだろう。
まぁ、実際人外なのだがな。
「風間さん、妖怪だったのですか?」
そうルナサが訪ねてくる。
「なんだ、気になるか」
「いえ、気配が人間っぽいし、見た目もそうなので、てっきり人間かと」
「人間だよ。三割くらいはな」
「クォーターなの?」
さぁどうだろうな、とメルランの言葉を適当に返す。
彼女達は、この否定も肯定もしない曖昧な言葉に、きっとそうなのだろうと勝手に結論付けるだろう。
生憎と俺は人間と妖怪のハーフなんかではない。純度シックスナインの存在だ。九が六つ並ぶその可能性は、俺が限りなく人間に『近い』何かと言うことを現している。
そう、近い存在というだけ。
ではその限りなく小さな可能性は何か? 其処に含まれる存在は?
それが、俺の正体。だが濃密なシックスナインがその存在を隠してしまう。
だから誰も俺の正体は理解出来ない。八雲紫ほどの人物ならば、違和感を感じる事はあるだろう。だが、それでも正体を視ることは不可能だ。
何よりも、俺の『存在』は、万人も視たことが無い存在だから。
「……だからなのか?」
其処まで考えて、少しだけ、気になっていた疑問が解けた気がした。



