知らない彼
出会った日
この童顔の青年と出会ったのは、春のことだった。
桜の舞う景色とは不釣り合いに、やや寒さが残る日だったと思う。
中学時代とは違う面々に対し、俺はわくわくしていた。
どうやって、この愛しい学校の奴らを愛そうかと。
臨也は見た目や声など、眉目秀麗、所謂イケメンと称される分類に属するが、中身は歪みに歪んでおり、人類が好きで仕方がないと公言できるくらいには、変人であった。
そんな臨也であったから、もちろん彼の愛し方は「普通」の愛し方ではない。愛しい人間が臨也の作った環境でどういう表情をするのか、どういう感情を抱くのか、どういう反応をするのか。そういったことを「観察」するのが彼の愛し方だったのだ。
しかし、新しい人間関係に弾んでいた臨也の想いは入学式早々邪魔が入ることになった。
気が合わないなんてもんじゃない。気に入らない。視界に入るだけでこの世から存在を消してやりたいと冗談じゃなく思う、あいつのせいだ。
人間を等しく愛している俺だけど、あいつは人じゃないから仕方がないよね。
平和島 静雄
ああああ。もう字面だけでも苛々する。本当にいつ死んでくれるんだろう。
まぁ、そんな奴が俺の近くにいるってだけで、問題が起こってしまうのは最早必然だよね。
入学式で椅子がテーブルが飛ぶ、ナイフが飛ぶ、人が飛ぶなんて、光景は俺の知る限りでは初めてじゃないかな。阿鼻叫喚。新羅じゃないけど、正にそんな感じ。あ、新羅って奴は中学からの同級生で、人間じゃない女を声高に叫ぶ、変わった奴のことだ。
学ランの裏地にあるナイフを一刀投げる。水平に飛行したそれはあの化け物の首の右側を掠ったようだったが、この程度であいつは怯むはずがなく。
そのまま近くにあったパイプ椅子をこちらに怒号とともに投げてきた。
「あっははは!どぉこ狙ってるのさ?」
椅子は俺の左横を過ぎて壁に突き刺さる。全くさぁ、椅子が壁に突き刺さるなんて、それ何てCG?状態だよねぇ。
廃棄が決定された、その椅子の末路を目を細めて追う。するとそこに一人の青年がいた。
短髪の黒髪。背はそれほどないが、白衣を着ているから恐らくセンセイの一人だろうと思った。
「ほーら、シズちゃんが考えもなく投げるから、センセイだって怖がって」
るじゃない。と続くはずだった俺の言葉は、俺自身の喉で止まってしまった。
白衣の青年は眼を開き、驚愕を表現しているというのに、彼は両の口端を持ちあげていたからだ。
そして、そのまま視線は俺たちを凝視している。まるで一時たりとも目を離せないと言わんばかりに。
この時だった。俺が彼に興味を抱いたのは。