こらぼでほすと 一撃6
エントランスで声をかけたら、ニールから驚いたという声だ。まあ、こっちまで間男が
出張するとは思ってないだろう。用事があるんであげてくれ、と、言ったら、ちゃんと扉
は開いた。
「店のことか? ハイネ。」
トダカ家の扉を開いて、ニールが心配顔だ。ちげぇーよ、と、そのまま入ったら、食卓
にアマギとトダカが座っている。
「トダカさん、調子はどう? 」
「随分いいよ。」
「完全に痛みが抜けるまで、出勤すんなって、オーナーから命令だ。」
「来週には、どうにかなるだろう。それで? 」
ハイネが顔を出すんだから、何事か伝言でもあるんだろう。まあ、座らせてくれ、と、
ハイネが対面の椅子に座ってから話を切り出す。
「おたくの娘さんがさ。動きすぎだと、八戒からレッドカードなんだ。」
それで、ああ、と、トダカも納得した。今日は、パタパタと動いているとは、トダカも
思っていた。
「まあ、明日あたり、寝込むんじゃないかな。」
「え? 」
「んなことありませんっっ。」
アマギのほうは、それに気付いていないから、びっくりだ。そして、当の本人は、全否
定している。
「賭けてもいいぞ? おまえ、明日は寝込む。」
「それはない、それは。」
「いや、八戒も言ってたし、虎さんたちも、そう思ってたみたいだ。動けるからって、全
力使うなっつーてんだろ? ちょっとはセーブしろ。」
「何にもしてないぜ? 」
「あんだけパンケーキ焼いたら、かなりの労働だろ? 里帰りした時ぐらい、のんびりし
とけよ。シンやレイに作ってやるぐらいはいいけどさ。店にまで差し入れしなくていい。
」
「じゃがいも剥きすぎただけなんだ。いつもの調子で作っちまってさ。」
「明日からすんなよ? やったら、本宅へ連行すんぞ? 」
「わかってるよ。・・・・なあ、ハイネ。晩メシまだだろ? 適当でよければ作るよ?
」
で、この意見が、さらりと出て来るので、ハイネは、コメカミに手をやる。俺の話を聞
いてないだろ? と、坊主のハリセンでしばきたい気分だ。
「トダカさん、あんたの娘さんさ、どっかで回路がショートしてないか? 」
「してるかもしれないけど、私は楽しいから、別にいいさ。」
「お父さん、甘すぎだ。」
「はははは・・・・シンにも叱られたよ。」
「トダカさん、ニールは止めなくていいんですか? 」
すでに、台所でごそごそとしているニールに、アマギが尋ねる。具合が悪くなるなら止
めておこうかと思ってのことだ。
「いいんだ、アマギ。うちの娘さん、明日は、どうせ起きないからやらせておきなさい。
・・・ところで、悟浄くんは、うまくバーテンダーはやってるのかい? ハイネ。」
「今日は、なんとかなると思うけど、問題は明日だろうな。中国酒縛りのカクテルに限定
してるけど、それ以外の注文も出るだろうからさ。」
「行こうか? 」
「冗談だろ? トダカさん。これで無理して、さらに腰痛めたら洒落にならないぜ? 明
日は、キラと悟空で、どうにかさせるさ。」
「エザリア様のお連れなら、難しいものは注文されないだろう。」
しばらくして、どんっと食卓に置かれたのが、他人丼で、ちゃんとスープも漬物も用意
されているのが、さすが、だ。
「今夜は、俺が一緒に寝てやるよ。」
「はあ? 仕事に戻れよ? まだ、勤務時間だろ? 」
「今日は、仕事にあぶれたんだ。」
「じゃあ、早めに帰って、ゆっくりすればいいじゃないか。」
「おまえさん、俺がいなくて寂しくないのか? 」
「ねぇーよ。てか、そのホストトークやめろ。」
「つれないねぇー。」
へらへらと笑いつつハイネは、他人丼に箸をつける。しばらく、ニールと顔を合わせて
いなかったから、この掛け合いが楽しかったりする。
ハイネが用件を終わらせて帰ろうとしたら、ちょいとした頼まれ事をされた。まあ、午
後ちょいと前なんてものは、これといって予定はなかったから引き受けた。まあ、ハイネ
にしか引き受けられない用件だったから、というのもある。
経過を確認するために、トダカはドクターのところへ出かけることになっていたのだが
、案の定、ニールは熱を出した。先日ほどではないが、起きるのが辛いぐらいのことで、
ぐってりベッドと友達だ。こうなると、何も口にしないので、しょうがないからドクター
が、とりあえず遠征して、点滴で栄養を補充しないといけないわけだが、トダカのほうは
機械が入用なので、歌姫様の本宅へ出向かなければ意味がない。ということで、まず、ハ
イネがドクターのところからニールの治療用の道具一式を運んできて、入れ替わりにトダ
カはアマギに付き添われて本宅へ出向くということになった。
ハイネは、一応は資格はあるが、実技はニールで実習しているだけだから、非常に下手
だ。本日も、ぶしっと血管を突き抜けさせた。
「・・・てぇ・・・・」
「黙ってろ。」
ぶつぶつと文句を吐いている声で、誰だかわかって、ニールのほうも目を開ける気もな
くなった。怖ろしく下手なので、何度か痛い目に遭わされるのは確定している。
「・・・なんで、おまえ?」
「トダカさんが、あっちで検査だから、こっちは、俺の担当。」
「・・・・いたい・・・・」
「あ、またか? おまえ、血管が細くてやりづらい。」
いや、ドクターのところの看護師さんに、ついぞ、そんなことを言われたことはない。
ドクターだって、ハイネが下手なのは承知のことだから、子供用の細い針を渡してくれて
いるが、それでも、これだ。
ぶしぶしと何度か痛い目に遭わされて、ようやく、針は血管内に落ち着いた。輸液に、
他の溶剤を溶かし、速度も調整すると、やれやれ、と、ハイネも器材を片付ける。
「細いのだから二時間くらいかかるらしい。寝てていいぞ? 」
出かける前に張られた冷ピタを取り替えて、パチンとハイネがニールの額を叩く。言わ
んこっちゃない、と、ハイネは苦笑しつつ説教はする。
「だから、言っただろ? お里にいる時は大人しくしてろ。」
「・・・あーうん・・・・」
ようやくアレハレロストの寝込む前の状態に持ち直した。とはいっても、完全ではない
。今はまだ、細胞異常が広がっていないから、これぐらいで、どうにかなっているが、そ
れだって、いつ、悪化するのかわからない。とりあえず、ゆっくりさせておくのが絶対だ
。それも、本人にわからないように、が基本だ。
「おまえ、梅雨までに、なんとかしとかないと、えらいことになるぜ? ママニャン。」
「・・・まだ、一ヶ月もあるから・・・・」
「そうだけどさ。」
「てか、雨ってだけだから、もう治る。」
「バカ、それだけじゃねぇーよ。桃色子猫が帰ったから、ってのもあるだろ? 」
「あーそうかもな。・・・・なんで、そんなに気落ちするかなあー俺は。」
「おかんだからだろ? 」
「・・・・違いない。」
「大人しく寝てろ。」
「はいはい。」
作品名:こらぼでほすと 一撃6 作家名:篠義