こらぼでほすと 一撃7
どこの親子さん? という会話をしているのが、とても微笑ましい。そして、そのニー
ルの背中からガバリと肩を抱いて坊主が、こそっと、「きゅうりが枯れる前に帰って来い
。」 とか、ほざいている。
「来週には帰れますよ? 水やりしてくれるって言いませんでしたか? 」
「俺は知らん。」
「ああ、ママ。きゅうりは大丈夫。俺が、毎日、水やってる。花が咲いてるぞ? 」
「そうか。楽しみだなあ。」
「おい、舅はいいのか? 」
「家の中は、自由に動いてるから、ずっと付き添ってなくても大丈夫です。家事は無理だ
けど。」
「仮病じゃねぇーのか? 」
「違いますよ。こっちに迷惑かかってるから気にしてるくらいなんだから。・・・・・あ
んた、俺がいないと寂しいんでしょ? 」
「はあ? 死にてぇーのか? おまえ。」
「そうそう、三蔵がさー酒の肴が足りないとか、お昼がしょぼいとか五月蝿いんだぜーマ
マ。」
「サル、おまえも死んでくるか? 」
「来週には帰って、おいしいものを作りますから、我慢してください。」
で、この会話は、ホールで展開されているので、スタッフは全員聞いている。微笑まし
いんだか、ナチュラルに家族会話だとか、本当に、おまえら、ノンケなのか? とか、い
ろいろと、こそこそと陰でツッコミされていたりはする。
ニールからの贈り物だよー、と、フェルトに差し出されたのは、グレーのヌイグルミだ
。動物ではなくて、何やら魚らしいが、普通ではない。
「これは、何を模倣しているんだ? フェルト。」
「ジンベイザメ。それに、ヤツアタリしておけって、ニールが言ってたよ。」
「ヤツアタリ? 」
「うん、アレルヤの代わりだって。ティエリアが降りたら、大きいのを用意するから、と
りあえず。」
「あの人が、そんなこと言ったのか? 」
「うん。」
俺は、子供じゃないぞ、と、内心で、寺で女房をやっている人を罵りつつ、それを受け
取った。そして、ふと、呼び方に気付く。
「フェルト、ロックオンのことをニールって呼んでいるのか? 」
「うん、『吉祥富貴』では、コードネームを使わないことにしたんだって。だから、ニー
ル。ティエリアも、降りたら、そう呼んでね。」
さあ、荷物を片付けないと、と、フェルトは部屋を飛び出した。カガリからの差し入れ
は、大きなコンテナ一個丸々に詰められていて、整理しないと、何が入っているのかすら
わからない。食料飲料ということで、リストはついているのだが、それだって確認しない
と、なんだか不明なのだ。とりあえず、ラッセがコンテナから外へ運び出してくれている
ので、フェルトも手伝いに出向いた。ここには、実働部隊だけでなく、武器開発や整備の
関係者も多い。フェルトとラッセだけではなく、まあ、気分転換に、みな、手伝ってくれ
るだろうと、ティエリアは出向かなかった。
・・・・あの人、俺のことを、いくつだと思っているんだ? ・・・・・・
届けられたヌイグルミは、小さなものでティエリアの両手にちょうど載るぐらいのもの
だ。刹那じゃあるまいし、と、苦笑しつつ、そのヌイグルミを、ぼかっと殴る。
・・・・・おまえがいないから、こいつはヤツアタリされるんだ。あのバカ、さっさと帰
って来いっっ。・・・・・
何度か叩いてみると、ふいに笑えてくる。本当に、ちょうどいいヤツアタリ具合だ。柔
らかいスポンジだから、ティエリアが拳を痛めることもない。
あれから、随分経過したが、まだ、手がかりすら掴めていない。まあ、居場所が判明し
たとしても、MSが揃わないと奪取はできない。だから、今のところは静観しているしか
ない。
・・・・さすが、おかんだ。いいものを届けてくれる。・・・・・
さっきまで、子供じゃない、とか文句を言ってた割に、すんなりと、そのヌイグルミを
手にして、仕事に戻る。目に付くところへ置いて、作業に戻った。来月の前半に、ティエ
リアも一ヶ月の休暇に地上へ降りる予定だ。それまでに、ノルマはクリアーしておかなけ
ればならない。いくつものパネルを展開させて、作業を再開する。目の端には、ジンベイ
ザメが鎮座している。
・・・・きみの分まで働いているから、こうも忙しいんだ。戻ったら、きっちり返しても
らうからな。・・・・・
ドスッと拳を、それに振り下ろして、それからティエリアは意識を目の前に集中した。
さて、地上の『吉祥富貴』では、午後から夕方までニールか手伝いに入って、店の開店
準備については落ち着いた。バーテンダーのほうは、かなりの苦戦はしているが、トダカ
からの秘密メモで、どうにかクリアーしている。まあ、二週間ぐらいだと客も一巡するか
しないかだから、一回ぐらいは、ご愛嬌ということで許してくれている。
木曜日に、再度、経過確認にトダカが出かけたら、どうにか、腫れは引いてきたとのこ
とだ。
「来週は月曜から出勤できるから。」
診察の帰りに、アマギと共にトダカが、店に顔を出したら、スタッフも、ほっとした顔
になった。バックヤードの仕事は、意外と大変だったらしい。
「なあ、トダカさん、俺や悟浄あたりに、カクテル講習してくれよ。」
「鷹さんは、すでに口説き用のは習得してるじゃないか。」
「いやいやいや、この間、エザリアさんの時に、俺は、まだまだだと痛感した。名前すら
知らないカクテルを、カワイ子ちゃんに言われてさ。」
「それも、中国酒のカクテルなんだ。あれは、まいった。」
悟浄も鷹の言い分に、付け足す。マニアにも見えない相手に、オーダーされたカクテル
が作れなかったのは、屈辱らしい。
「そういう時は、適当なのを作って、『あなたには、こちらのほうが相応しい。』と、き
みらなら、丸め込めばいいんじゃないのかい? 」
トダカの指摘に、ふたりして、はっと気付いて顔を見合わせた。そうなのだ、いつもの
戦法なら、それを使っている。
「つまり、それぐらい動揺してたわけですよ、トダカさん。」
おかしそうに八戒が、大笑いしつつ、店の状況を説明した。ああ、なるほどねーと、ト
ダカも笑っている。いつもの口説きテクニックを使うことすら失念していたのだから、か
なりの動揺だとは思われる。
「そうか、バーテンダーは注文したものを作るもんだと思ってて、そっちに気が回らなか
った。ヤキが回ったぜ、俺も。」
「私だって知らないのは、注文されてから携帯端末で調べて作ってるさ。」
「そんなウラ技があったのか? ちっっ、うっかりだ。」
そうは言っても、トダカが調べるものというのは、大概、最近、出来たカクテルなんか
だ。古いのや定番は、きっちりと頭に入っている。そうでないと、お客様別に微妙に配分
を変えたりや隠し味を効かせたカクテルなんてものは無理だ。
「トダカさん、お待たせしました。」
そうこうしていると開店準備の終わったニールが、紙袋を手にやってきた。ここんとこ
作品名:こらぼでほすと 一撃7 作家名:篠義