こらぼでほすと 一撃7
ろ、晩ご飯のおかずは、爾燕が作ったものを、お裾分けしてもらっている。その袋を手に
している。
「こちらで召し上がったら、どうです? 」
「いや、今日は、お客様があるだろ? アスラン君。それに、ここだとアマギが落ち着か
ないんだよ。」
付き添いのアマギは、あくまで、トダカの部下然としてソファにも座らずにいる。トダ
カのほうは、カウンターのスツールに腰かけている。さすがに、ソファのクッションは辛
いらしい。
「ママ、明日は、トムヤンクンがいいな。」
「・・・・キラ、俺は東南アジアの料理までは無理。」
「うーー食べたい。」
「市販のペーストを使っていいなら、なんとかなる。」
「じゃあ、それ。あとねー、あっさりサラダ。」
「はいはい。」
そろそろ、気候も夏らしくなってきたので、そういう辛いものが食べたいと、大明神様
はリクエストだ。寺では、和食か中華に限定されてしまうから、こちらでならリクエスト
が通るからだ。
「じゃあ、帰ろうか? 娘さん。」
「はい。ちょっとコンビニに寄りましょう。ノンアルコールビールを買います。」
もちろん、トダカさんと俺の分で、アマギさんは、普通のを呑んでください、と、ニッ
コリとニールは、トダカに笑いかける。アルコール禁止と、背後から文字が見えて、トダ
カですら、えーと声は出した。
金曜日の夜に、「そろそろお帰りよ、娘さん。」 と、トダカが言い出した。腰の痛み
は、すっかりなくなっているので、トダカ自身で身の回りのことはできるようになってい
る。なっているのだが、ニールは、先にてきぱきやってくれるので、ぐーたらしている状
態だ。これに慣れてしまうと、寺の坊主と同じようなことになってしまうのを警戒しての
ことだ。
「別に慌てることもないですよ。あまり無理はしないほうが・・・・」
「痛みはなくなったし、そろそろ身体を動かさないと鈍ってしまう。」
「じゃあ、散歩ぐらいからやりますか? 」
「だからさ、明日、寺まで一緒に散歩して、娘さんは、そのまま帰ってしまえばいい。」
トダカのマンションから寺までは、徒歩だと30分はかかる。さすがに、そんなに歩い
たら、まずいのではないだろうか、と、ニールのほうは心配する。一応、月曜日から職場
復帰の予定だが、最初は重いモノは持ち上げないように、皆が手伝うことになっている。
「シンたちが、明日は戻ってきますし、どうせなら日曜に帰ります。あいつらの洗濯物と
かあるだろうし。」
「きみの亭主が寂しがってるだろ? 」
「でも、梅雨時分は、丸々一ヶ月ほど留守しますから、慣れてますよ。」
寺の冷凍庫には、常時、作り置きのおかずが冷凍されている。雨で具合が悪くなったり
、梅雨が来れば、ニールは寝込んでしまうからだ。基本的に、いろんなものを放り込んで
あって、悟空が適当に、それらを解凍して食べている。味噌汁の具セットというタッパー
には、一日分の具材がパッキングされて入っているし、煮物というパッキングには、いく
つか種類の違うものがあるし、鍋物と書かれているのは、シチューやカレー、ハヤシライ
スのルーなんかである。生モノは、調達してもらわなければならないが、ある程度の日数
は賄えるようになっている。
「いや、そうじゃなくてさ。きみがいると、年少組が顔を出すだろ? かなり賑やかじゃ
ないか。ハイネは、居候するしね・・・・きみがいないと、誰も来ない。騒々しいのに慣
れると物足りないんじゃないかなあ。」
「でも、以前は、そうだったんですよね? 」
「慣れると騒々しいのも楽しいものなのさ。」
「そういうもんですかね? あの人は、書類仕事をしていると、静かでないとできないっ
て言いますよ? 」
「でも、きみとは喋ってるんだろ? 」
「ええ、まあ。洗濯物畳んだり繕い物はしてますね。」
坊主が、書類仕事をしているのは、午前中のことだ。長引いている時は、午後からもや
っている。洗濯物が乾いていれば、それを取りこんで、ニールは、そこで畳んでいるので
、ぽつぽつと会話はしている。
雨だったりすると、寝込んでいるが、坊主が、ちゃんと一時間に一度は様子を見にやっ
てきてくれる。その時も眠っていなければ、やっぱりぽつぽつとは会話をする。
「そういうのは、日常のことだからさ。ふいに無くなると寂しいもんなんだよ。」
「トダカさんも? 」
「ああ、しばらくは、きみの部屋を開けて、『昼は何がいい? 』 とか、尋ねてしまう
だろうね。まあ、うちは、親衛隊が、出入りするから、誰もいない日というのは少ないん
で、大した事はないけど。」
今は、トダカの世話をニールがしているので、親衛隊は来なくてもいい、と、命じてあ
る。ニールが寺へ帰れば、いつも通りに、親衛隊が現れるから、それほど、ひとり、とい
うものにならない、と、トダカは言って笑っている。対して、三蔵のほうは、ニールがい
なければ、途端に一人だ。それは、寂しいだろうとも言う。
「じゃあ、折衷案で、日曜日の午後というのは、どうですか? 」
「私は、別にいつでもいいんだけどね。それだと、親衛隊が来るから送ってあげられない
よ?」
「一人で帰れますよ。子供じゃあるまいし。」
「土曜日の晩ご飯を、寺で、みんなで食べるというのは、どうだい? 娘さん。」
「焼き肉でもします? シンたちも来るなら、そういうのがいい。」
「それはいいな。ついでに、白身魚も焼いてくれ。それで、三蔵さんと一杯やることにす
る。」
「トダカさん、アルコールは厳禁です。」
「まあまあ、そう堅い事を言いなさんな、娘さんや。そろそろ、禁断症状なんだ。薄いの
にするから。」
「アル中みたいなことを言わないでください。・・・・・薄いのですよ? ちゃんと、三
蔵さんにも頼んでおきますからね? 」
「あはははは・・・・はいはい。それでいいよ。・・・・ほんと、うちの娘さんは可愛い
なあ。」
親身になって心配しているからの小言に、トダカは嬉しそうに微笑む。すっかり、ニー
ルも、お里では言いたいことは吐き出せるようになった。寺でも、それなりには吐き出し
ているのだろう。あまり溜め込まないようにするなら、適度に行き来させているほうが安
全だ。
「四捨五入で三十路の男に、それを言いますかね? お父さん。」
「いつまでたっても、娘は娘だから、いいと思うよ? 娘さん。」
「わかりました。明日、シンとレイにアッシーしてもらって帰ります。晩ご飯の買出しを
途中でして行きます。」
「うん、そうしよう。お肉がたくさん必要だろうなあ。」
育ち盛り食べ盛りのシンたちが居ると、お肉の量も生半可ではない。大人たちは、肉よ
り魚のほうがいいが、それでも大人の男たちだから量も食べる。トダカが、ニールの誕生
日プレゼントに、ホットプレートを贈ってくれたので、寺にはふたつある。まあ、ふたつ
あれば、どうにかなるだろうと、ニールも必要な食材をメモしはじめる。お肉だけじゃな
作品名:こらぼでほすと 一撃7 作家名:篠義