こらぼでほすと 一撃7
くて、野菜も食べさせたいので、いろいろと用意するつもりだ。
それを眺めつつ、トダカはお茶を入れる。いい休養だったなあーと思う。ニールがいて
くれたので、親衛隊に頼むより楽させて貰った。どうしても、親衛隊は、自分たちの休み
に来てくれるから、穴が開いたり、家事が不得手なのもいるからだ。家の中は、綺麗に片
付いていて、埃もない状態だ。
「今週は、掃除してもらわなくてもいいぐらいだ。」
「台所の換気扇までは掃除してませんよ。そこは、頼んでください。」
メモを書きながら、ニールが返事する。はいはい、と、トダカも返事して、温かいほう
じ茶を食卓に置いた。
土曜日の午後近くに、シンとレイがトダカ家に顔を出した。洗濯物を両手一杯に抱えて
いるので、まずは、そこから、と、ニールが洗濯機に叩きこむ。昨今のものは、乾燥殺菌
までやってくれるから、そこまでは放置だ。
「午後から、寺へ帰ることになったから、晩メシは寺でな。」
「え? とうさん、もういいのか? 」
「そろそろ返さないと、三蔵さんが怒るだろ? シン。それに、腰のほうは、痛みも取れ
たから、自力でどうにかなるさ。」
「それに関しては、シン、レイも、店でトダカさんが重いモノを持ち上げないように注意
してくれ。」
「ママ、そちらは任せてください。それなら、洗濯はよかったのに。」
「いや、おまえら、アイロンかけないからな。ワイシャツはノリ付けとしかないと、無様
だぞ。」
普段の授業は、ドレスコードなどない。普段着で十分なのだが、特別講義となると、話
は別だ。期間限定で各界の著名人たちが講義をする。そういう場合は、最低限、ワイシャ
ツにネクタイぐらいまでは規定されている。ここんところ、シンとレイは、その授業を受
けていて、スーツ姿で登校していた。
「ちゃんとわかってるよ。ねーさんが、こっちに居たから楽させてもらっただけだ。」
「別に、時間があるなら、寺へ運んで来い。やってやるから。」
さすがに、そこまで遠征するほどのことはない。ニールがいなければ、ワイシャツはク
リーニングに出すつもりだ。
昼メシを食べて、居間でアイロンがけするニールの横には、レイが張り付いている。シ
ンのほうは、台所で片付けをしているし、トダカは、ちょっと横になると部屋に戻った。
これが終わったら、近くのスーパーで買出しをして、寺へ移動する。
「今日は、こっちに戻ってくれな? レイ。トダカさんが、一人になっちまうからさ。」
「はい。・・・・でも、寂しいです。毎日、顔が見られたのに。」
ここだと、店の出勤途中だから、シンとレイも、毎日、顔を出していた。レイとしては
、こちらにいてくれると、独占してるみたいで嬉しかった。寺だと、悟空がいるから、一
応、遠慮はする。それに、寺は人の出入りが激しいから、なかなか、レイだけの相手をし
てもらうのは難しい。
「店には、しばらく、顔は出すつもりだから、毎日、逢えるぜ? レイ。だいたい、俺の
顔なんぞ、拝んだところでご利益はない。」
「ご利益はあります。ほっとするんです。それに、俺としては、あなたしかいませんから
。」
保護者や後見人というのは、レイにもある。だが、おかんは、ニールだけだ。これとい
って特別なことはないのだが、ポンと肩を叩いてくれたり、声をかけてくれるのが、何気
ないことなのに嬉しい。そういうのは、今までなかった。
「まあ、おまえさんは、うちのと同じで、血縁はないからなあ。そんなことぐらいでよか
ったら、いくらでもしてやるよ。」
刹那たちマイスター組も、血縁者というものはない。家族という関係は、皆無だったか
ら、レイが言いたいこともわかる。
「ありがとうございます。」
「おやつは、毎日、準備してるから時間があれば食べにくればいい。」
「ええ、もちろんです。」
「泊まってもいいんだし。」
「はい。」
「もう寂しくないか? 」
「はい。」
よしよし、と、金髪の頭をくしゃくしゃと撫でて、ニールも笑っている。レイにしてみ
れば、甘えても嫌がられない相手なんてのは、シンとニールとトダカぐらいのことだ。普
通は驚かれてしまう。
「ねーさん、レイばっか甘やかしてると、悟空が拗ねるぞ? いや、三蔵さんか。」
洗い物が終わったシンも居間にやってくる。レイばかり贔屓すれば、確実に寺の亭主が
不機嫌になるはずだ。
「三蔵さんは拗ねないよ。いい大人なんだからさ、シン。」
「そうでもないぜ? ここんところの、三蔵さん、すっげぇー不機嫌だった。悟空も、マ
マがいなくて拗ねてるって言ってた。」
店では、入れ替わりになって、ほとんど顔は合わせていないので、ニールは三蔵のほう
の動向は知らない。もうなんていうか、不機嫌で、不発弾みたいだったらしい。
「あの人も、寂しがり屋だからなあ。」
クスクスと笑って、ニールは、レイの頭をポンポンと今度は軽く叩いている。ある意味
、必要とされているのが、明確にわかる態度で、寺の女房としては嬉しい限りだ。
「だからって、あんまりこき使われるなよ? ねーさん。もうすぐ、梅雨なんだかんな。
」
「わかってるよ。」
「それと、近々、父の日の贈り物探索もよろしく。」
「ああ、そうだな。ガラスのやつを探さないとな。」
父の日まで、まだ二十日以上あるが、まあ、探すとなると、それぐらいあっという間だ
。それに、ニールは入梅したら、しばらくは本宅で寝込むだろうから、それまでに探索は
完了しなければならない。
「俺らの都合がつく日を連絡するから、合わせてくれる? 」
「ああ、こっちは、いつでもオッケーだ。」
「当日は、バラも用意するつもりです。それも連名にしますね? ママ。」
「バラ? 」
「ええ、母の日は赤のカーネーション、父の日は、黄色のバラを贈るのが、特区の定番な
んです。」
「へぇーそうなんだ。ああ、俺も一緒させてくれ。」
「了解です。」
で、ニールは、ふと、自分の亭主にも用意しようかな、と、思いついた。何かと世話に
なっているので、こういう時に感謝の気持ちだけでも贈っておこうと考えた。周囲の人間
が、それを聞いたら、「逆だろう。」 と、すかさず、ツッコミされたに違いない。
ニールが、そろそろ寺へ戻るだろうという予想の元に、寺へ顔を出したら、案の定、帰
って来ていた。じゅーじゅーとホットプレートで肉やら野菜やらが焼いて、シン、レイ、
悟空は、そちらでバトル状態だ。そして、坊主と女房と、女房の父親は、その様子を肴に
して、のんびりと酒盛りをしている。とはいっても、女房は飲まないから、酌をしている
ぐらいのことだが、ここんところ、不機嫌極まっていた坊主が、穏やかな顔で女房と話し
ている様子からして、女房が居ないのがイヤだと拗ねていたのだと、よくわかる。
「いらっしゃい、ハイネ。」
「ちょうど、いいところだったな。俺にもビール。」
作品名:こらぼでほすと 一撃7 作家名:篠義