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狭い夜、広すぎる朝に(るいは智を呼ぶ、智×惠)

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 ――その先は、やっぱり真っ暗。
「あれ……」
 思わず呆然とする。
 暗い部屋の扉の先には、あの明るい場所だと思っていたのに――広がるのはただ、風通しのいい夜。かろうじて見える床は覚えがあるものだけど、居並ぶはずのビルの電気は一つも付いていない、ただひたすら、ほんとうの意味での夜景だけ。
 ぶるり、と、今度は身体全体が震える。肩にかかったままのブランケットを握りしめる。誰もいなくて、視界はひらけているのに見えなくて、涙は出そうで出ない。泣いちゃいけないと首を下げて、身を縮こまらせる。
 僕らしいといえば僕らしい、呪われた行き先――自分で自分に泣けてくる。
「智」
 声がする。連れてきた、付いてきてくれた惠の声だ。
「どうやら、溜まり場のようだね。夜だから見慣れない景色になっているんだろう」
「……惠にも、そう見える?」
「ああ。間違いなく、僕たちが集ってきた場所だよ」
 間違いない、なんて彼女らしくもない言葉。それが僕を勇気づける。
 僕は夜を重く見た。惠は溜まり場であることを重く見た。静かで確かな差がそこにはある。一人では気づかないことを、二人がそれぞれ見つめている。
 手を引いて、恐る恐る一歩、二歩。革靴ごしに伝わってくる硬さは、まぎれもなく溜まり場のコンクリートだ。
 次第に目が慣れ、輪郭が捉えられるようになる。なるほど、黒一色に見えた世界は、目を凝らせば様々なものが居並んでいた。溜まり場だけがあるんじゃなくて、周りの建物もきちんとある。
 そのどれもが光を持たず、寝静まっているけれど――景色があることに、ほんの僅かだけ安堵する。
「それにしても、どうして夜なんだろう。いつもは昼にみんなで集まってるのに」
「僕が君を好きだからじゃないかな。言い換えるなら」
「……好きだと、言えるから?」
「そう」
 いつの間にか隣に並んでいた惠の顔を見る。目が慣れた今なら、明かりがなくてもおぼろげに表情が分かる。
 ――寂しそう。
「太陽の下で『僕』が語らう未来は、そんな簡単に得られるものではないんだろうね」
「……うん……」
 昼間――現実の惠は、伝えたい想いを伝えられない。気持ちが強ければ強いほどに、押し込めて、押しつぶさなければならなくなる。ちょっと口を滑らせただけで終焉がやってくる、綱渡りの一日一日。
 それでも彼女は、危険を承知でみんなと居ようとする。嘘つきのままで生きようとする。
 ……だから、ここは夜なんだ。
 真実を許される惠とみんなが集う溜まり場は相反する。可能性の旅路、望むゴールをまだ見つけられない僕は、真実を語る彼女を呼ぶことはできても、陽のあたる場所に招くことまではできないんだろう。
 それは僕の力不足なのか、それとも――
 よぎる諦めを振り払い、端まで歩いてみる。見下ろせば、底の見えない闇がたゆたう。昼間訪れるときはあんなに輝いて心地いい場所なのに、今はどこまで落ちるのかすらわからない深さに取り囲まれている。
 いや、もともとそういうものかもしれない。仲間と手を取り合っている間は忘れそうになるけれど、僕たちが呪われている事実は決して揺らぐことはない。呪いを解くことは結末にはなっても解決にはならないんだ。惠を呼ぶ僕は、答えのなさを知っている。
 どん底まで落ちれば這い上がれる、そんな言葉をよく聞く。
 けれどもし、どん底が存在しないのだとしたら? 
「……っ」
 その果てしなさに心が縮み上がる。
 叶わぬ願いなんて口が裂けても言いたくないし、信じたくない。だって、僕は呪いなき惠をここに引き寄せることができる。ここから現実への道を拓くことも、できないって決まったわけじゃない。やり方が解らないだけで、やり方自体はきっと存在するんだ。
 そう思わなきゃ、やっていけない。こんな希望そのものの能力を持ちながら、本当にやりたいことに届かないなんて――
「智」
「ふにょ!?」
 腰に手が回された。と思ったら、ぽてん、と後ろに尻餅をつく格好になる。背中は体温に支えられ、安定する。優しく、あやすように頭を撫でられる。
「君は想いが強いね。その分、絶望も強く引き寄せてしまう」
 不安の羽を掬うような、穏やかな音色が耳に届く。
「どうしたら……って、考えちゃうんだよね、やっぱり。半端にできるからなおさら」
「最善を選り好みすることは、正しいとは限らないんじゃないかな」
「僕は君を諦めないよ」
「……招かれざる客のはずの僕が、こうして君と一緒にいる。それが何よりの証拠なんだろうね」
「うん」
「どうしても、僕を手放したくない?」
「もちろん」
「じゃあ、暫くはこのままで」
「はーい」
 おしりは冷たい……けど、抱きすくめられているからか、それほど気にはならない。
 ……抱きすくめられてる?
「……あぅ、また逆だ」
「ふふっ」
「どうしてそう、惠が主導権取っちゃうかなぁ」
「逆だったら珍妙な光景にならないかい?」
 想像してみた。
「……このほうがしっくりきます」
「適材適所だよ」
「むー……」
 分かっていてもなんか悔しい。個性と言えばそれまでなんだけど、こう、オトコノコらしく振舞いたいという気持ちはあるのです。
 ……まあ、惠にはもともとオンナノコらしく振舞おうという気がないしなぁ。二人が誰も誤解しない姿になる未来は、いうなればハッピーエンドの後のエキストラ。一足飛びにそこまで行こうなんて現実逃避にも程がある。
 今の僕たちは、今の僕たちだから意味がある。
 静かな時間。夜になお残るはずの雑踏の音も、車の音もない。風は耳に残らず流れていく。
 世界に二人きり――
 ううん、違う。景色の中に、世界の中に、二人がいる。
 そのことに何よりも安心する。夜ならではのしぃんとした空気すら、なんだか心地いい。
 目が冴えていて、でもどこか夢見心地。いつまでもこうしていたいとちょっと思う。
 と――藍色に染まった灰色の腕が、空を指す。
「智。上を見てごらん」
「上……あ……」
 言われたとおりにして――思わずぽかんと口を開ける。
「星……」
 間抜けな声が出る。とても子どもじみた、素直な感想が零れ落ちる。
「あんなに……いっぱい……」
 圧倒される光景があった。
 散り散りの光の粒が、形をなさない、無数の形を結べる点が一面に広がっている。満天の星空、天の川――空の色を変えるほどには強くなく、けれど飲み込まれるほどには弱くなく――ただ、己の光を放ち続ける星々の連なり。数えきれない姿が暗闇に散りばめられ、じっと、じっと輝いている。
「綺麗だろう?」
「うん、綺麗……」
 僕たち以外を招かない溜まり場は、自然の沈黙に微睡んでいる。その上に広がる、人々が『暗闇』と名づけ恐れる空間を彩る生命。
 手の届かないところで、それぞれにそっぽを向きながら、自分たちの出来る限りを見せてくれる星々。星が生きていると言われても普段はピンとこないけれど、今日は、この空間では別だ。
「いくつあるのか、数えてみようか」
「……さすがにそれは無理だよ」
「そうかもしれない。それぐらい多くの生命に、僕たちの触れ合いが見守られている」
「月が見てる的なこと言わないでっ!?」